三重大学の研究グループが、ダウン症に関係する遺伝子を除去できる可能性を発表した。成功率は最大で37.5%と、実用化のレベルには達していないが、今後より精度の高い手法を確立し実用化を目指したいとしている。
「生む生まない、に『治療する』という選択肢を」
研究成果を発表したのは、三重大学医学系研究科の橋詰令太郎講師(戦略的リサーチコア、ゲノム操作・解析技術開発ユニット)らの研究グループ。
ダウン症は、遺伝子のうち「21番染色体」が通常であれば2本のところ、1 本過剰で計 3 本となっているトリソミーが原因で、知的発達障害などを合併する疾患。個人により程度の差はあるが、知的障害でほぼ生涯規模の支援が必要となる。約700人に 1 人がダウン症で生まれてくるとされ、これは国民の約 0.1%の割合だ。
心臓外科や小児外科の発展によりダウン症者の寿命は延び、現在 60 歳を超えている。一方で知的発達障害への改善策はなく、過剰な染色体そのものを細胞から有効に消去する技術も確立していない。このことが、専らダウン症の検出を目的とする出生前診断が関係者の予測より普及していることにつながっており、倫理的な問題も生じさせている。
研究グループはこの課題に対し、海外などで研究が進むゲノム編集技術で、余剰の染色体を除去できるか検証した。まずダウン症患者の皮膚からiPS 細胞を生成。このiPS細胞に対しゲノム編集技術で、3 本ある 21 番染色体のうち1本を除去したうえで、過剰だった染色体を除去された細胞が、遺伝子発現パターンや細胞増殖速度など、細胞としての活動がどのように変化したかを観察した。その結果、これらの細胞特性は正常になったことが確認できたという。ただし、染色体を除去できた確率は37.5%で、まだ高い成功率とはいえない状況だ。
研究グループでは、ダウン症の本質的な病因である過剰染色体そのものを消去する「染色体治療」が可能となれば、ダウン症の合併症の低減に大きく貢献し、さらに、出生前診断にまつわる「生む・生まない」の議論に、「治療する」という新たな選択肢が加わることが期待できるとしている。今後、より精度の高い、安全な除去技術を確立し、実用化につなげたい意向だ。