近畿大学医学部と電子部品メーカーSMK(東京都)が、胸部のX線撮影やCT検査時に患者の呼吸状態を非接触で確認できる新たなシステムを開発した。従来技術と比較し患者への負担が少なく低コストで、感染症診療などの臨床応用も期待できるものとなっている。
低コストのミリ波センサで臨床応用の可能性示す
胸部のX線撮影やCT検査で「息を止めて撮影」するのは常識となっているが、ただ、息を十分に吸えていない状態での撮影は、健常でも肺炎のような所見を示したり、心臓が実際より大きく見えたりする可能性が指摘されている。そのため、装置を用いて呼吸の状態を確認する方法が求められているものの、現在の計測システムはコスト高なものが多く、臨床応用には至っていない。
この課題に対し、近畿大学医学部 放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)の門前一教授、大学院医学研究科の小坂浩之非常勤講師らを中心とした研究グループは、電子部品メーカーのSMKとの共同研究により、ミリ波センサ※1を用いて胸部のX線撮影やCT検査時に患者の呼吸状態を非接触で確認できる新たなシステムを開発した。「ミリ波」は波長が数ミリメートル程度のため微細な振動を検知できる電磁波で対象物の動きを正確に検出可能であり、しかもセンサは比較的安価となっている。
研究グループは臨床応用の可能性を探るため、健康なボランティア20人を対象に呼吸波形の計測を実施した。被験者の胸腹部にミリ波を照射し、その反射波から呼吸による体表面の動きを波形として取得し、従来法と比較した結果、従来は計測が困難であった乳幼児(6カ月)や小児(4歳)の呼吸状態も正確に検出でき、また、CT撮影時の姿勢である仰向けの状態や、X線撮影時の立位の状態のどちらでも安定した測定が可能であることを確認した。
研究グループはこの成果について、本システムは比較的安価で導入できるため多くの医療機関での実用化が期待されるとして、医療機器メーカーと連携して製品化を目指すとともに、放射線治療分野への応用も視野に入れている。呼吸性移動を伴う腫瘍に対する放射線治療において、本システムはより正確な呼吸動態の把握が可能で、治療精度の向上に貢献できるという。