2020年2月3日、光学系機械メーカーの三鷹光器、京都大学医学部附属病院、パナソニックらは、プロジェクションマッピングの技術を応用し、患者の体表や臓器にリアルタイムで直接手術ガイド情報を投影できる新システムを開発し、クラスⅡ医療機器の製造販売承認を得たと発表した。同技術の医療応用で実用化されたのは世界初。
投影遅延時間0.2秒以内、ズレ±2㎜以下のシステム
以前より術前に取得したCT・MRIなどの体組織情報を基に、病巣の位置確認などのシミュレーションや術中ナビゲーションを行う機器は開発されてきたが、術中の体組織変形などによる位置ズレに対して課題があり、リアルタイムな手術ガイドは困難とされている。また近年、新しい術式のひとつとして蛍光薬剤であるインドシアニングリーン(ICG)※1を使用した蛍光ガイド手術が普及し、血管及び組織の血流評価、乳がんや悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節※2の位置の同定を簡便かつ低侵襲に行うことができるようになっているが、外科医が近赤外蛍光画像を術野ではなく外部のモニター画面上でしか確認できず、頻繁に術野から目を離しモニターを確認しなければならないという課題が残されている。
この課題を解決するべく、3者は蛍光観察カメラとマッピング用のプロジェクターを同軸光路上に配置し、患部観察情報と投影映像にズレ(±2㎜以下)が生じない仕組みを開発。臓器の移動や体組織の変形にリアルタイム(0.2秒以内)に追従し、さらに、状況に応じて自在に装置を的確に患部に向けることが出来るアームシステムを使用することで、直視下での手術継続を実現可能にした。
「海外展開にもアドバンテージ」
3者は近年、ICGなどの蛍光ガイド技術は国内外の学会・研究会で多くの注目を集め学術論文の掲載数も急激に伸びており、この分野の先進国である日本において上市することで、海外展開においてもアドバンテージを有するとしている。さらに国内でもICGの保険適用の範囲について拡大の傾向にあり、今後さまざまな診療科において応用が期待されるとしている。承認をきっかけにまずは国内で実績を積み、順次海外展開を計画する見通しだ。
※1 インドシアニングリーン(ICG)
50年近く前から肝機能検査薬として使用されており、静脈注射で投与されたICGの時間経過に伴う血中濃度の変化を測定することで、肝臓の色素排泄機能を検査する目的で一般的に広く使用されてきた。近年では血中、体組織中に投薬されることによりタンパク質と結合し、780nmの近赤外光を照射すると830nmの蛍光発光を示す性質を利用し、特殊な赤外線カメラで撮影すると830nmの蛍光を白黒映像として捉えることが可能であり、血流の確認、体組織の血流評価、リンパ節の探索などに使用されている。※2 センチネルリンパ節
乳房内から乳がん細胞が最初にたどりつくリンパ節と定義される部位のこと。このセンチネルリンパ節を発見、摘出し、更にがん細胞があるかどうか(転移の有無)を顕微鏡で調べる一連の検査をセンチネルリンパ節生検と呼ぶ。