外科手術が適応となった大腸がん患者を対象に、国内外約 150 施設(台湾 1 施設)の協力を得て行われた世界最大規模の前向き研究で、リキッドバイオプシーによる術後の再発リスク測定の有用性が示された。測定で血中循環腫瘍 DNAが陽性だった患者は再発リスクが高く、術後補助化学療法を受けた場合再発リスクが低いことが分かったという。
患者ごとのオリジナル遺伝子パネル検査を実施
研究成果を発表したのは、国立がん研究センター東病院の吉野 孝之副院長、九州大学病院の消化管外科 沖 英次准教授らの研究グループ。切除可能大腸がんにおける根治的治療は手術となるが、これまで主に病理組織検査の結果から推定される再発リスクに応じ、術後補助化学療法が実施されてきた。しかし患者により薬の効果や副作用に違いがあり、特に末梢神経障害が長期間にわたり後遺症として残存することが課題となっている。研究グループでは、より精密なリスク測定法に基づいた術後補助化学療法の実施プロトコルの探索のため、CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)※1の枠組みで、手術適応となった大腸がん患者対象とした臨床試験を行った。協力施設は国内外約 150 施設(台湾 1 施設を含む)に及び、世界最大規模の前向き研究となった。
具体的には、米国 Natera 社が開発した高感度遺伝子解析技術「Signatera(シグナテラ)」アッセイを用い、血中循環腫瘍DNAの測定を実施。生検あるいは手術で採取された腫瘍組織を用いた全エクソーム解析※2の結果をもとに、16 遺伝子を選択し患者オリジナルの遺伝子パネル※3 を作製した。術前および術後4週時点から定期的に血液を採取し、患者ごとのオリジナル遺伝子パネル検査を用いて、血液中のがん遺伝子異常の有無を調べた。対象症例は1,039例となった。
結果、術後 4 週時点で血中循環腫瘍 DNA 陽性は、陰性と比較して再発リスクが高いことが分かった。18ヵ月時点での無病生存割合は血中循環腫瘍 DNA 陽性では 38.4%、陰性では 90.5%だった。
さらに、ステージ 2・3 の患者において、術後 4 週時点で血中循環腫瘍 DNA 陽性の場合、術後補助化学療法を受けなかった患者さんでは18ヵ月時点での無病生存割合が 22.0%であったのに対し、術後補助化学療法を受けた患者は 61.6%と再発リスクが低下することも分かった。一方、術後4週時点で血中循環腫瘍 DNA 陰性では、術後補助化学療法を受けなかった患者は318ヵ月時点での無病生存割合が 91.5%、術後補助化学療法を受けた患者は 94.9%と統計学的な有意差は認められなかった。
以上の結果から、術後 4 週時点における血中循環腫瘍 DNA の陽性/陰性が再発リスクと大きく関連していること、さらに術後 4 週時点で血中循環腫瘍 DNA 陽性では、術後補助化学療法を行うことで再発リスクを低下させることができる可能性が示されたとしている。研究グループでは、術前・術後に血中循環腫瘍 DNA を測定することで、大腸がん患者の再発リスクに応じた術後補助化学療法の個別化に繋がることが期待できるとしている。
※1:CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)
最新のリキッドバイオプシー解析技術を用いて、外科治療を受ける患者の術後再発リスクを高精度に推定し、より適切な医療を提供することを目的としたプロジェクト。国内外約 150 施設(うち海外 1施設を含む)が参加する、大規模な医師主導国際共同臨床試験(GALAXY 試験、VEGA 試験、ALTAIR 試験)を実施している。
※2:全エクソーム解析
遺伝子のうち、タンパク質の遺伝情報をコードしているエクソン領域のみを抽出して解析する方法。エクソン領域は全ゲノムの 1-2%程度で、がんと関連する多くの遺伝子異常は、エクソン領域に存在すると推定されている。
※3:遺伝子パネル
がんの診断や治療に役立つ情報を得るために、最新の解析技術を用いて、一度に複数の遺伝子異常を調べる検査法のこと。