複数の機器のMRI画像に対応し、統合失調症判別に特化したAIを開発 東京大
東京大学の研究グループが、世界で初めて複数の機器のMRIの脳画像に対応できる、統合失調症判別に特化した人工知能(AI)の開発に成功したと発表した。様々なMRI機器が存在する臨床現場において利用価値の高い人工知能になる可能性がある。
サートベクターマシン(SVM)によるAI構築、臨床応用を視野
成果を発表したのは東京大学大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センター・小池進介准教授、東京大学医学部附属病院精神神経科・笠井清登教授、東京大学医学部附属病院放射線科・阿部修教授、浜松医科大学医学部精神医学講座・山末英典教授(前東京大学医学部附属病院精神神経科准教授)らの研究グループ。精神疾患の診断は現在でも精神科医による問診が主な判断基準であり、客観的な診断補助が求められているなか、画像解析技術を応用した人工知能開発が多くなされている。しかし先行研究では限られた疾患群と健常群のデータを用いた研究がほとんどで、多施設データでのAI開発や、異なる臨床病期のデータに当てはめ評価することは行われてきていない。特に発症前後では診断を確定することが難しい場合が多く、治療方針確定が困難なケースもある。
この課題を解決するため、研究グループでは磁気共鳴画像(MRI)の脳構造画像データを用いて、
1)慢性期統合失調症、健常対照の 2 つをわけるAIを開発
2)どういった脳構造特徴が重要かを明らかにする
3)機械学習器判別と重症度の相関を検討
4)開発に使用していない独立した異なる統合失調症臨床病期※1(精神病ハイリスク、初回エピソード精神病)及び発達障害の脳構造画像を当てはめ、AIが疾患群と健常群を判別できるか
を検討した。まず慢性期統合失調症 83 名、健常対照 113 名の研究参加者から計測された脳構造画像をテストデータセットとし、解析ソフトウェア「CAT12 」を用いて全脳の灰白質を抽出。計 554,992の脳構造特徴変数を求めた。次に、Python の SkLearn ライブラリにあるサポートベクターマシーン(SVM)を用いてAIを構築。異なるプロトコルで撮られたデータセットを用いてその性能を評価した。判別率のほか、各疾患群で症状が重症であるほど、判別がより疾患寄りになるかの関係も評価した。また独立サンプルとして、精神病ハイリスク 27 名(数年間で統合失調症発症リスクが 20%程度あるといわれている群)、初回エピソード精神病 24 名(精神病症状[幻覚、妄想など]を発症してまもない群)及び発達障害 64 名の研究参加者から計測された脳構造画像を検証用データセットとして同様の方法で脳構造特徴変数を求め、開発したAIに投入した。
結果、精度はテストデータセットで75%、検証用データセットでも76%だったという。また統合失調症臨床病期群は、発達障害群と比較して慢性期統合失調症として正しく分類された(慢性期統合失調症への分類率:精神病ハイリスク、41%;初回エピソード精神病、54%;慢性期統合失調症群、70%;発達障害群、19%;健常者群、21%,図 2)。
研究グループでは、今回の研究は多施設、異なるMRI機種や計測パラメータで得られた脳画像を用いて開発したAIを開発、および検証した世界初の成果だとしており、将来臨床現場において、鑑別診断や治療予測などのマーカーとして応用が期待できるとしている。