日本の研究チームが、ウェアラブルデバイスのブレイクスルーとなり得る大きな研究成果を発表した。皮膚に貼り付けられるほど薄く細密でありながら、通気性や耐久性にも優れており長期間の使用にも耐えられる電極シートを開発し、実際に心電図を1週間計測することに成功したという。
ナノレベルの薄さと高耐久性を持つ新素材のシートを開発
成果を発表したのは、東京大学大学院工学系研究科の王燕特任研究員、李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授らを中心とした研究チーム。チームは超薄型でありながら、高耐久性と高粘着性、通気性を兼ね備える伸縮性ナノシートを新たに開発、その上に電極を乗せ生体信号を検出できるナノシートを作製した。非常に薄いジメチルポリシロキサン※1を数層のポリウレタンナノファイバー※2で強化することで優れた機械的な耐久性を実現しており、皮膚の伸縮や日常生活におけるこすりなどに対し、高い耐摩耗性を発揮するとしている。また、このシートは高い水蒸気透過性を有するほか糊や粘着性ゲルなどの粘着剤を用いずに皮膚に貼り付けられるため、皮膚への負荷を劇的に低減できるという。
チームでは作成した電極シートの有効性を確認するため、実際にヒトの皮膚に貼付し、貼り付けた直後と1週間後に心電を計測できるか調査したところ、すでに実用化されている他のゲル電極と同等程度に信号計測できることを確認した。どちらの雑音レベルもともにに10マイクロボルトと非常に高精度だとしている。研究チームはこの研究成果について「日常生活の自然な活動における健康状態を長期間計測することが可能になった」としており、今後、医療・ヘルスケア分野において病気や体調不良を早期発見するためのウェアラブルデバイスとしての応用が期待されるとしている。この成果は2021年9月13日に、米国科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要」のオンライン版に掲載された。
※1 ジメチルポリシロキサン
シリコーンゴムの一種。ポリウレタンより柔らかく、伸縮時における応力を緩和することができる。
※2 ポリウレタンナノファイバー
ゴムのような弾力を持つポリウレタンをナノメートル(10億分の1メートル)寸法の繊維にしたもの。電界紡糸法にて形成される。