新型コロナウイルスの感染経路として改めてエアロゾル感染の存在が指摘されているが、東大医科研と情報通信研究機構の研究で、ウイルスなどの不活化能力があると注目されている「深紫外線」を活用した研究成果が発表された。LEDを活用し照射出力・方法を工夫した結果、飛散・浮遊するエアロゾルに対し照射時間0.1秒以下で十分な不活化能力を示せたとしている。
深紫外線の高出力LEDを開発
研究成果を発表したのは、東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授ならびに国立研究開発法人情報通信研究機構の井上振一郎室長らの研究グループ。新型コロナウイルスの感染経路の一つとしてエアロゾル感染の存在が明らかになっているが、エタノールなどの液体薬剤が使いづらいエアロゾルに関しては有効な不活性化方法が確立されていない。
液体薬剤が活用できないなかで、深紫外(DUV)半導体発光ダイオード(LED)を用いた光照射による不活化が注目されている。ウイルスや微生物の光不活性化には、UV-C と呼ばれる100〜280nmの波長域の光照射が効果的であり、特に、DNAやRNAの吸収極大波長とほぼ重なる265nm付近の光照射が最も高い効果が得られる。現状すでにこの周波数の光を出力するLEDは存在しているものの、実用的な不活化能力とはいえない出力にとどまっており、研究グループは波長265nmの発光ピークを示す高出力な窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系DUV-LEDを開発し、その不活化能を検証した。現状の市販されているDUV-LEDより約10倍の出力があるという。
まず液体中のSARS-CoV-2に対するDUV-LEDの不活性化効果を調べるため、スライドガラスの上にSARS-CoV-2懸濁液を円形に広げ、真上からDUV-LED光を照度54mW/cm2で照射した。ウイルス懸濁液を回収しプラークアッセイを用いてウイルス力価を測定すると、ウイルスの感染力は照射0.167秒後に1/1000、0.270秒後に1/10000、0.387秒後に1/100000に減少しました。各タイムポイントにおける照射光量は、それぞれ9.02 mJ/cm2, 14.58 mJ/cm2および 20.90 mJ/cm2であり、DUV-LED光によるSARS-CoV-2懸濁液のD99.9は9.02 mJ/cm2だった(図2)。
続いてSARS-CoV-2エアロゾルに対するDUV-LEDの効果を調べるため、バイオセーフティレベル3施設の安全キャビネット内にウイルスエアロゾルの解析が可能な試験チャンバーを設置。試験チャンバー内にはネブライザーを用いてSARS-CoV-2を含むエアロゾル(94.9%以上の粒子が直径2μm未満)を生成し、DUV領域の光透過性の極めて高い合成石英で作製された管を介してエアロゾルをエアサンプラーで採取した。DUV-LED照射システムは合成石英管内を通過するエアロゾルを石英管の外側から光照射できるように設置され、エアサンプラーの吸引流量を調整することでエアロゾルが照射領域を通過する時間(照射線量)を制御した。エアロゾル化したSARS-CoV-2は、DUV-LED照射により、0.0043秒(0.23 mJ/cm2)後に1/10、0.0074秒(0.40 mJ/cm2)後に1/100、そして0.019秒(1.04 mJ/cm2)後に1/1000にまで急速に不活性化された(図3)。SARS-CoV-2エアロゾルのD99.9に必要な総線量は1.04 mJ/cm2であるので、DUV-LED照射は、ウイルスエアロゾルに対しては、ウイルス懸濁液に比して約9倍有効であることが示された。
研究チームではこの検証により、波長265nm帯のシングルチップ500mW高出力 DUV-LED照射システムを用いることで液体中およびエアロゾル中のSARS-CoV-2を迅速に不活性化できることが実証されたとした。実用化にあたっては皮膚や目への直接の照射を避ける運用が必要だとしているものの、空気清浄機やエアコン等の内部に組み込むなど、安全な遮蔽機構を有する製品開発を行えば有望だとしている。