NECは2016年12月19日、記者会見を開き、自社開発しているAI技術群「NEC the WISE」を活用し、新規に創薬事業へ参入すると発表した。この技術で発見した治療用ペプチドワクチンの開発・実用化を推進する新会社「サイトリミック」を2016年12月16日付で設立している。
AI技術で培った「免疫機能予測技術」で未踏のペプチドワクチン実用化へ
NECは2014年からの山口大学・高知大学との共同研究および山口大学における臨床研究を通じ、肝臓がん、食道がんなどの消化器がん、乳がんで発現している2種類のがん抗原を対象に免疫を活性化するペプチドの探索を行い、合わせて10種類以上のペプチドを発見。さらに各ペプチドが、日本人の約85%の人口をカバーする複数のHLA型に汎用的に適合し、実際に免疫を活性化することを確認している。
この成果の背景には、2001年に開発した、機械学習と実験を組み合わせる独自の手法で有望なペプチドを発見できる「免疫機能予測技術」の有効性があった。有望なペプチドを探索するには約5,000億通りのアミノ酸配列の中から探すことが必要だが、機械学習のメソッドを導入することで短期間に効率的な探索ができたという。同様の手法で、ペプチドの効果を増強する新しいアジュバントについても山口大学との共同研究で発見。2016年1月から、発見したペプチドとアジュバントを組み合わせた「複合免疫療法」の臨床研究を進めている。
VCの投資も受け入れ、新会社「サイトリミック」で次のステップへ
12月16日付で設立された新会社「サイトリミック」は、設立直後の12月19日にファストトラックイニシアティブ、SMBCベンチャーキャピタルなどからの第三者割り当てを受け入れ資金調達を実施した。今後、実用化に必要となる治験用製剤の開発、非臨床・臨床試験を行い、製薬企業との事業化検討へと進む見込みだ。会見でサイトリミックの土肥社長は「革新的なワクチンの臨床開発を通じて、がんを克服する社会の実現に貢献する」と力を込め、親会社のNECの清水隆明取締役も「持ち分適用会社のため当面は売上計画を用意しない」と全面的なバックアップを表明した。資金提供に応じたVC各社も「日本を代表する新たなベンチャー企業を全力で支援する」(ファーストトラックイニシアティブ 木村廣道代表取締役)、「社会的課題に立ち向かうベンチャービジネスを支援するのは本望」(NECキャピタルソリューション安中正弘代表取締役)と、未踏の領域への挑戦に力強いエールを送った。