2019年5月27日、NECは自社のAI技術群を活用し、免疫治療法に特化した創薬事業に参入すると発表した。第一弾として欧米において、パートナーであるバイオテクノロジー企業Transgene SAと共同で、頭頸部がんと卵巣がん向けワクチンの臨床試験(治験)を日本企業で初めて開始する。
独自の「ネオアンチゲンワクチン」による新薬開発へ
がん細胞の遺伝子変異に伴って、新たに生まれるがん抗原「ネオアンチゲン」。正常な細胞には発現せずがん細胞のみにみられ、またその多くは患者ごとに異なることが知られている。NECは、自社が開発するAI技術群「NEC the WISE」のひとつである「グラフベース関係性学習」によって、患者毎に特異的なネオアンチゲンの選定を可能にするAIエンジンを開発した。このAIエンジンは、NECが独自に蓄積してきたMHC※1結合活性の実験データによる学習に加え、ネオアンチゲンの多面的な項目を総合評価し、治療に有望なネオアンチゲンを選定することができるという。
今回FDA(米国医薬食品局)に実施の許可を得たのは、頭頸部がんと卵巣がん向けの個別化ネオアンチゲンワクチンの臨床試験。被験者から検体を採取し、AIで免疫活性に有効そうなネオアンチゲンを探索・選定し、 Transgene社の持つウイルスベクターをベースとする技術でワクチンを合成、投与する。検体採取からワクチン投与までを1カ月で行えるようにする予定だ。なおイギリスとフランスでも治験実施を申請中とという。
NECでは2025年に創薬事業の事業価値を3,000億円まで高めることを目指すとしているが、治験の成果いかんにかかっている、として売上や利益見通しは示していない。
※1 MHC
免疫反応に必要な多くのタンパクの遺伝子情報を含む、細胞膜表面にある糖タンパク質。ヒトにおけるMHCのことをHLA(Human Leukocyte Antigen; ヒト白血球抗原)といい、1万種を超える遺伝子型が知られている。そのため、個体によって細胞表面に発現しているHLA分子は非常に多様性に富んでおり、これによって人体は自己と外来の細菌やウイルスを識別し、免疫反応を起こす。