頭痛治療に取り組む日本の複数の医療機関からなる共同研究チームが、問診票の解析だけで高精度に複数の頭痛を鑑別できる人工知能(AI)を開発した。研究チームでは放射線学的検査や血液検査などを必要とせず、患者・医師双方の負担を軽減できるとしており、今後さらに実地検証を進めていくとしている。
非専門医の診断精度が大幅に改善
研究成果を発表したのは、糸魚川総合病院 脳神経外科 (新潟県糸魚川市)、富永病院 頭痛センター (大阪府大阪市)、埼玉精神神経センター (埼玉県さいたま市)の共同研究チーム。頭痛の治療に関しては研究の進展で、痛み止めと予防薬の適切な服用により多くはコントロールできる状況にあるが、頭痛専門医は日本全体でわずか949名しかおらず、かつ正しい診断のためには長時間の問診が必要となるため、多くの患者が診療を経ずに市販の痛み止めで対処することが多い。適切な診療を受けないまま痛み止めを飲み続けると、服用が原因の薬物乱用頭痛を発症するなどして難治化してしまう。
今回、研究グループは問診にかかる医師と患者双方の負担を低減し、非専門医でも高い精度で診断を行えるようにするため、臨床で使われる17項目にわたる問診票のデータ解析だけで鑑別が可能な人工知能の開発を行った。具体的には、富永病院頭痛センターの4000名の匿名化された問診データ、および頭痛専門医による5種類の診断名(片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛、その他の一次性頭痛、脳血管障害などの二次性頭痛)のうち、2800名のデータをAIに学習させ、問診票の17項目を入力することで5種類の診断のそれぞれの確率を提示するAIを開発した。
有効性を検証するため、非頭痛専門医5名に50名の頭痛患者を問診票にもとづき診断させ、頭痛専門医による診断を比較した。AIなしでの頭痛診断精度は46%だったが、AIを用いた場合、83%まで向上した。特に専門的治療が必要な片頭痛と三叉神経・自律神経性頭痛のAIによる診断精度は100%だったという。研究グループでは今後、複数の医療機関や企業などにおいてAIの有用性をさらに検討していく予定。