「動かしたい意思」を汲み取るAIロボットで上肢運動機能改善、世界初 順天堂大ら

 脳卒中患者のリハビリテーションにおけるデジタルソリューションについては、下肢リハビリの分野で日本企業のロボットが世界進出を果たしているが、課題とされている上肢についても日本から注目すべき研究成果が発表された。動かそうとする際の脳の生体信号を読み取りAIで解析、自分の意図に合わせた動きをさせるようにすることで効果が確認できたという。

週2回、10回のトレーニングで効果確認

 研究成果を発表したのは、順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学 藤原俊之教授、メルティンMMI(東京都)らの研究グループ。脳卒中で麻痺などの後遺症が残る患者のうち、手の麻痺が実用レベルまで回復するのは15~20%にとどまると言われている。近年、ロボットがリハビリテーション分野でも応用されるようになってきたが、上肢に関しては多くは患者の意図に関係なく決まった動作を繰り返し練習するものであったり、患者の動きをアシストするものであったため、重度な手の麻痺は回復が困難とされてきた。研究グループは、自分では思うように手を動かせない重度の麻痺がある患者においても「患者の意図を生体電気信号からAIが判別し、麻痺した手を思い通りに動かすAIロボット」を開発し、脳卒中後の手の麻痺のリハビリテーションに用い、その効果を無作為化比較試験で検証した。

 AIロボットは麻痺した前腕に3対の電極を置き、脳から手に送られる電気信号のパターンをAIが解析することにより、重度な麻痺で手が動かない患者においても、患者が「指を伸ばそう」としているのか、「曲げよう」としているのか、それとも力を入れないように「リラックスさせよう」としているのかを読み取り、患者の意図に合わせて麻痺した手を動かす。

 本研究には脳卒中発症後2か月以上経過した後に手の麻痺が残存している患者20名が参加。参加者は無作為にAIロボット群と他動ロボット群に割り付けられ、AIロボット群では1回40分のAIロボットを使用して、自分の意図に合わせて指の曲げ伸ばしを行い、物を掴んだり、移動させる麻痺手のトレーニングを週2回、計10回行った。他動ロボット群では他動的に指の曲げ伸ばしを行う麻痺手のトレーニングを同様の回数を行った。終了後、AIロボット群ではトレーニング後に上肢運動機能の改善を認め、その効果はリハビリテーション終了4週後にも維持されていたこと確認された。また日常生活での麻痺手の使用頻度においても改善を認めた。

 研究グループでは、この研究成果は「患者の意図を生体電気信号からAIが判別し、麻痺した手を思い通りに動かすAIロボット」を用いた脳卒中リハビリテーション治療の効果を示した世界初の研究であり、これまで回復が困難であるとされていた脳卒中後の麻痺手の回復を可能とする新しいリハビリテーション治療として期待できる」としている。

論文リンク:New artificial Intelligence-Integrated Electromyography-Driven Robot Hand for Upper Extremity Rehabilitation of Patients With Stroke: A Randomized Controlled Trial(Neurorehabilitation and Neural Repair)