「脳細胞」として定着しうる組織を人工的に3Dプリントできる技術 英オックスフォード大の研究
PS細胞の誕生により、さまざまな部位に対する再生医療の実現が期待されている。日本を含む各国で、心筋や角膜の再生など治療法確立の道筋が見えてきつつあるものもあるが、脳組織の損傷に対する応用も大きく期待されている分野の一つだ。このほど英オックスフォード大の研究チームが、脳細胞へと分化可能なヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)をバイオ3Dプリンタで調整することに成功し、マウス実験で損傷した脳組織に定着することを確認した。
脳独自の構造へ分化できる前駆細胞を3Dプリントすることに成功
損傷した脳組織への再生医療の試みは、これまで神経前駆細胞や脳オルガノイドをマウスに移植する研究が行われてきたが、もとの脳組織と同様の構造を持つ組織に分化しないため、あまり芳しい成果が得られているとは言い難かった。大脳皮質は通常、層特異的なニューロンからなる6層構造をしており(I-IV層は上層、V-VI層は深層と呼ばれる)、こうした複雑な構造こそが高次認知において重要な役割を果たしていると考えられているからだ。
研究チームではこの課題を克服する手法として、バイオ3Dプリンタにより、大脳皮質特有の6層構造を簡易的に2層に分けたかたちで別々の神経前駆細胞を調製することを着想し、検証した。研究チームで開発したバイオ3Dプリンタで、健常人の細胞から作成したhiPSCをもととする神経前駆細胞と細胞周辺組織を層別に調製した(図1)。今回は簡易的に2層での調製だが、技術的には6層も可能だという(図1k以降)。
マウス病変部への移植後、分化と成長、病変部との統合が進んでいることを確認
プリント後、培地に1日または14日保存し培養したものを、マウスの脳に人工的に生成した病変部に移植。その後の組織修復能力を調製時に施した免疫染色などで検証した。それぞれ、ともに遺伝子発現と神経細胞の伸長が病変部に向かって発生し、統合が進んでいることが確認された。また1日のみの培養と14日間の培養では、後者の方が統合の度合いが強いことも確かめられた(図4)。
今回は簡易的に2層での検証だが、研究グループが開発したバイオ3Dプリンタは大脳皮質と同様の6層構造も調製可能であり、さらなる検証においても有効性が期待される。