現在そのほとんどが病院で実施されている人工透析。透析患者のQOLを大きく下げる一因となっていることは論を待たないが、日本人研究者の成果をもとに、在宅での透析が可能となる装置の開発を目指す北里大学発のスタートアップが、シードドラウンドの資金調達を完了した。2025年の上市を目指すという。
臨床工学研究者の成果を実用化へ 日本発の新たな医工連携
今回資金調達を完了したのは、北里大学発のスタートアップ企業「Physiologas(フィジオロガス)」。北里大学 医療衛生学部 准教授(臨床工学)の小久保謙一氏の研究成果をベースに設立された会社だ。小久保氏は取締役として自らも経営に参画し、以前からライフワークとする「在宅人工透析装置」の実現を目指す。
現在、慢性透析患者数は日本で約34万人、透析に対する日本の年間医療費は1兆6,000億円を越えるといわれる。透析治療はその97%が病院で実施され、患者は、病状にもよるが基本的には週3回、1回につき4時間程度、病院へ赴き治療を受けなければならず時間的・精神的負担はかなり大きい。QOL向上や病院の負担低減の観点から、病院以外の施設や在宅での透析療法の実現が望まれているが、普及には至っていない。
同社は、その理由として技術的・経済的なハードルを指摘する。現在病院で使われている装置を在宅で使おうとすれば、透析装置だけでなく水処理装置もともに持ち込まねばならず、また装置自体が医療従事者による操作が前提となっており患者自身が扱えない。つまり現在の設備で実行しようとすれば、装置の搬入、医療従事者の派遣等が必要となり、そのための費用を考えるとまったく現実的ではない。もし在宅使用を前提とした装置があれば、患者は透析のための通院を減らすことができ、自宅で透析が行え可処分時間を大きく増やすことができるだけでなく、さらに透析回数を増やすことも可能になるという。
同社はこうしたアンメットニーズを捉え、小型・可搬式で長期間・多回数の使用に耐えうる透析機器の開発を進めている。小久保氏はこれまで自らの研究でプロトタイプを作成してきており、これまでの成果と今回調達した資金を活用し、同社においてさらに研究開発を加速する考えだ。
同社はこの「在宅人工透析装置」の研究開発のほか、血液再灌流時の障害発生を抑制し、心臓の障害を低減できる新たな混合ガスを用いた「心筋梗塞治療装置」の開発も手がけている。