集中治療中患者の状態を血中バイオマーカーで素早く把握するセンサー開発 徳島大と北海道大
集中治療室で管理中の患者の重症度を、現行指標より素早く把握できるセンサーを開発したと、徳島大らの研究チームが発表した。研究チームが先に示している血中バイオマーカーをベッドサイドで測定できる装置で、5分程度で状態を把握できるようになるという。
乳酸値とATP値を活用した新指標を、ベッドサイドで測定できるセンサー
研究成果を発表したのは、徳島大学先端酵素学研究所の木戸 博特任教授、千田淳司助教、北海道大学大学院工学研究院の石田晃彦助教,同総合化学院博士後期課程の西山慶音氏(研究当時)、同修士課程の水上良平氏(研究当時)、九鬼静香氏らの研究グループ。集中治療室に入室した患者の重症度診断には通常「APACHE II スコア」※1が使用されるが、予後予測値であり測定項目が多く、さらに一部の項目は測定に時間がかかることから、リアルタイムの重症度把握には不向きという課題がある。徳島大学の木戸特任教授らは,血液中のATP値※2に対する乳酸値※3の比が重症度をリアルタイムに的確に示すことを先行研究で明らかにし,集中治療室に入室した各種重症患者やインフルエンザ患者においてその有効性を実証、「A-LES値」という新しい指標として提案している。一方,北海道大学の石田助教らはATPを簡便に測定できる手法を確立していたことから、共同でATP 値及び乳酸値の測定を一体化し、かつベットサイドでも迅速・簡便に測定できるセンサーの開発に取り組んできた。
研究チームでは反応条件を詳細に検討することで,試料に2液を加えるだけで測定できる手法を確立。さらに,ATPと乳酸とも同一の物質(過酸化水素)が生成するよう酵素反応系を構築したことで測定手法が統一でき、測定系がシンプルになった。この成果でこれまで2組必要だった電極を一枚のチップに集積することに成功し、測定をマイコン制御することで測定の手間を大幅に削減したという。その結果、数ステップの操作でATPと乳酸を同時に約 5 分で測定することが可能となった。患者のベッドサイドで利用可能であるため、インフルエンザや新型コロナウイルスをはじめ,重篤化した様々な患者の迅速な診断と治療に貢献することが期待できるとしている。なおこの研究成果は「Biosensors and Bioelectronics 誌(オンライン版)」に掲載されている。
※1 APACHE II スコア
Acute Physiology and Chronic Health Evaluation Score(急性生理学及び慢性健康評価指標)のこと。集中治療室に入室後 24 時間内の 12 の生理学的検査項目,年齢,慢性疾患の有無から評価する予後予測指標。12 項目の検査値は 24 時間内の最悪値を採用し,測定に長い時間を要する項目もある。
※2 アデノシン三リン酸(ATP)
生物は ATP を分解するときに生じるエネルギーによって活動している。ATP は全血中に 0.5~1.1 mmol/L(25~56 mg/dL)存在しており,重症化するとこれ以下の濃度になる。
※3 乳酸
生物の活動のさいに生成される。通常,血液には 0.5~5 mmol/L(4.5~45 mg/dL)含まれ,運動,疲労,疾病により増加する。