名古屋大学医学部附属病院と名古屋工業大学のチームが、IoT化した電源タップを開発し、病院内の医療機器につなげることで医療機器の稼働状況と位置を把握できるシステムを開発した。危機管理を担当する臨床工学技士の人手不足は慢性化しているが、こうしたシステムの普及で管理が容易になることで、医療事故リスク低減が期待できるとしている。
電源タップにLPWA規格の通信機能を付加
従来、スタンドアロンで利用されてきた医療機器は、現在では小型化、可搬化、高機能化が進み、持ち運びできる中型医療機器が多種・多数院内で稼働する状況となっている。その運用管理は臨床工学技士が担うが、動作点検、定期保守、予約管理、感染予防対策など多くは手作業にて実施される。医療機器の高度化やデジタル化にともなって臨床工学技士の業務量が増加する一方で、日常的な動作確認・操作は臨床工学技士だけではなく、医師、技師、看護職員等に委ねられるため、電源の入れ忘れ、確認不足などのインシデントを防止することが困難になっている。また2021年夏の新型コロナウイルスの第5波では、感染の急拡大と高い重症化率で、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)の稼働要請が多く生じていたが、稼働させる権限と責任を持つ臨床工学技士の不足が改めて社会課題として浮き彫りになった。
運用管理コストの低減に有力なのは、各医療機器の稼働状況や位置情報を共有し、管理ツールで臨床工学士や管理責任者が把握することだが、薬機法で医療機器には改造や追加や外部接続に規制が設けられていることから、各医療機器メーカは自社製品以外の製品も対象となる医療機器運用管理のネットワーク化に消極的という点があり、この点を克服するソリューション開発が求められている。
こうした課題を解決するため、名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンターの大山慎太郎特任助教、名古屋工業大学大学院工学研究科の大塚孝信准教授、株式会社ケアコムは、電源タップにLPWA(Low Power Wide Area)規格の通信機能や電波強度計測センサーを備えた電源タップを開発した。このデバイスに電源接続された医療機器の稼働状況が分かるだけでなく、事前に院内のWi-FiやBluetoothのアクセスポイントの位置を調べておけば、そこからの電波強度をセンシングすることで各機器の位置も把握できるようになるという。誤差はおおよそ5mだが、より精度を高めたい場合はBluetooth Low Energyビーコンを追加設置すれば可能だとしている。
今回両大学が開発したこのソリューションは、2022年2月1日から名古屋大学医学部附属病院の外科系集中治療部門(SICU)と新城市民病院の一般病棟で試験運用を開始。さらに他3病院と配備について協議中で、今後導入施設数拡大を目指すという。