遺伝子検査で患者個々の特徴を正確に捉え適切な治療を行う個別化医療に注目されているが、広島大とミネソタ大の共同研究グループが、遺伝子検査なしでも脳腫瘍患者の予後にとって重要な「BRAF変異」を予測できる技術を開発したと発表した。個別化医療の迅速化に寄与する画期的な技術だとしている。
研究成果を発表したのは、広島大学大学院医系科学研究科 河原大輔助教、永田靖名誉教授、ミネソタ大学放射線腫瘍学のYoichi Watanabe教授、Jinling Yuan教授らの研究グループ。転移性脳腫瘍は成人にみられる最も一般的な頭蓋内腫瘍で、さらに全身転移の一つでがん患者の10-40%が罹患している可能性があるといわれている。中でも黒色腫を伴う転移性脳腫瘍は脳転移において肺がん、乳がんに続き3番目に多く、死亡する可能性が95%、生存期間の中央値も7カ月程度と非常に予後不良となっており、治療成績の改善は喫緊の課題といえる。
がん治療では近年、遺伝子検査で患者個々の特徴を正確に捉えて個々に合った治療を行う「個別化医療」が注目されているが、遺伝子検査は4-6週間程度の時間、さらに50万円(自由診療)以上と費用が高額であり、患者だけでなくスタッフの負担も大きい。研究グループは人工知能(AI)の応用に取り組んでおり、過去の成果で、遺伝子変異であるBRAF変異を有する患者は、治療予後(局所制御)が優れていることを発見している。一般的に撮影される医用画像(MRI画像)から遺伝子検査結果を予測できれば迅速かつ適切な治療を実施でき、個別化医療の実現が近づくと想定されることから、過去の成果をベースに研究開発に取り組んだ。
今回、研究グループは放射線治療を行ったⅢ期肺がん症例に対し、「Radiomics解析」と呼ばれる医用画像から目に見える形状や色合いの情報に加え、画像の質感など定量評価が難しい画像情報や、目に見えない画像情報を解析する手法を用いて、脳転移患者のMRI画像より1962個の膨大な画像特徴を抽出した。この画像特徴に対して遺伝子変異(BRAF変異)との関連をAIで学習させ、遺伝子変異予測に重要な画像特徴を絞り、これらを組み合わせてBRAF変異の存在の有無を予測するモデル構築に成功した。予測結果よりBRAF遺伝子を表現する画像特徴として、腫瘍の形状がコンパクトであり、さらに均一に造影されている特徴であることが初めて明らかとなった。
予測精度について検証したところ、過去の研究では予測精度は80%以下だったが、本研究では、新たな人工知能(データ不均衡補正Radiomics解析)を用いた手法で、83%の精度でMRI画像からBRAF変異を予測可能であることが明らかになった。
研究グループは今回の成果について、医用画像の可能性を広げる画期的な研究開発であり、今後ますます発展する個別化医療において適切な医療を迅速に提供する上で欠かせない技術となることが期待できるとし、ミネソタ大学での実証実験など臨床活用に向けた研究を進める方針。また他の疾患、遺伝子予測へ拡張していく予定もあるという。