膵がんの術後の予後に関し、エクソソームが新たなバイオマーカーとなる可能性を示す研究が発表された。よく知られる既存のものより、再発リスク予測に関して有力な検証結果が得られたという。
研究成果を発表したのは、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の上村翔助教、高知大学教育研究部医療学系基礎医学部門の加部泰明教授(研究当時:慶應義塾大学医学部医化学教室専任講師)、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の北川雄光教授、北郷実准教授らの研究グループ。
浸潤性膵管がんは悪性腫瘍の中でも特に予後が悪く、5 年生存率が非常に低いことが知られている。従来の腫瘍マーカー「CA19-9」は診断や予後予測に使用されているが全ての膵がん患者で有効とは限らず、特に手術後の早期再発リスクの評価には限界があるとされているため、より早期かつ正確に予後を予測できるバイオマーカーの開発が求められている。
この課題に対し、研究グループは細胞から分泌されるナノサイズの小胞であり、特定のタンパク質やRNA、糖鎖構造を含むエクソソームに着目。特にエクソソーム表面のO型糖鎖の変異はがん細胞でしばしば観察され、癌の進行や転移と関連していることが先行研究で示唆されているため、これを検出することで再発リスクを予測できるか研究を行なっている。これまで加部教授らはエクソソームをカウントする技術「ExoCounter」を開発しているが、新たにO型糖鎖構造を認識するACAレクチンを用いて、膵癌患者におけるO型糖鎖変異エクソソームを検出する技術を開発したという。今回これらの知見をベースに、再発予測を示唆する新しいバイオマーカーとして「手術前後のACA陽性エクソソーム数の変化」を仮に定め、その判定能を検証した。
研究グループが膵がん患者44名の手術前後の血清サンプルにおけるACA陽性エクソソーム数の変化を解析したところ、手術後7日目の時点で、44名中27名(61.4%)の患者で ACA 陽性エクソソームが増加しており(図 1)、これらの患者(上昇群)は術後に低下している患者(低下群)と比較して、全生存期間(OS)および無再発生存期間(RFS)が有意に短いことが確認された(図2)(OS中央値: 26.1ヶ月 vs. 到達せず, p=0.018; RFS 中央値: 11.9 ヶ月 vs. 38.6ヶ月, p=0.013)。 一方、血清中のCA19-9は術後に多くの患者で低下し、上昇群と低下群の間に再発リスクとの関連性は見られなかった(図3)。
研究グループでは、これらの結果は、ACA陽性エクソソームの測定がCA19-9測定よりも術後早期の予後予測において優れていることを示唆しているとし、この手法が確立し高リスクの患者を早期に特定することができるようになれば、追加治療や継続的なモニタリングの強化を通じ、最終的には患者の生存率向上が期待できるとした。さらにACA陽性エクソソームの測定の効果は膵がんにとどまらないともしており、がん診断の新しい指針となる可能性も示唆している。