2043年の日本は高齢化にもかかわらず認知症患者の総数は減る、しかし介護費は増える——そんな推計を東京大学、米スタンフォード大らの研究グループが発表した。高齢者の疫学データをもとに、2043年までの健康・機能状態の年の変化を推計、追跡するシステムを開発したという。
研究成果を発表したのは、東京大学大学院医学系研究科の笠島めぐみ特任研究員と橋本英樹教授、同大学生産技術研究所、高齢社会総合研究機構、未来ビジョン研究センター、スタンフォード大学の共同研究グループ。高齢者の健康・機能状態が個別多様化していることを考慮し、個人レベルでの状態変化を将来予測するミクロシミュレーションによる研究が各国で進んでいるが、笠島特任研究員と橋本教授らのグループは、スタンフォード大学のBhattacharya教授らが開発したミクロシミュレーションモデル「FutureElderlyModel」を改良し、年齢・性・学歴別に13の疾患・機能障害の有病状態を予測するモデルを開発した。さらに、生産技術研究所の合田准教授・喜連川教授(当時)の支援で超大容量計算機環境を利用し、4500万人以上の60歳高齢者の健康状態データをバーチャルで再現。半年ごとの有病状態の変化確率を計算し、2043年までの変化を追跡した。また橋本教授らが収集した国内高齢者パネル調査(「暮らしと健康調査」)の認知機能測定データと、飯島教授らが柏市で実施したフレイル調査の結果から得られたデータをもとに、年齢・学歴・併存症別に認知症とフレイルの有病確率を併せて推計するシステムも開発した。
その結果、2016年では認知症患者数は510万人と推計され国の予測とほぼ同じだったが、2043年ではこれまでの国の予測とは異なり、465万人に減るという予測結果が得られた。学歴や健康状態の改善により年齢別の有病率が減少することは、これまで欧米の疫学調査や推計でも明らかになっていたが、今回の推計根拠も、人口縮小に加えて日本の高齢者の健康状態や学歴の向上が国際的に比較して際立っていることなどの影響が表れたものと考えられるという。ただし、女性の有病率は大卒でも14%から15%、高卒未満では23.8%から 24.5%に悪化すると推計された。また、格差の影響を受ける層ではフレイルを合併する割合が高いことも明らかになった。濃密な介護ケアが必要になるため、介護費総額は増加することが示唆されたという。
研究グループでは、国の認知症対策に関してはこれまで治療・予防など医学的な技術開発に重点を置いているが、今回の推計結果は、それにプラスして社会格差対策の必要性も示唆しているという。