難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者に、日本のベンチャーが展開する生体電位信号を活用した歩行訓練ロボットによる歩行訓練に取り組んでもらったところ、歩行能力に一定の改善効果が認められたと東邦大学の研究チームが発表した。根治療法のないALSに対する医療的介入で、何らかの改善が見られたとの成果は世界初とみられる。
1回最大20分、週2−3回の訓練最大2ヵ月で効果
研究成果を発表したのは、東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 森岡 治美助教(任期)、平山 剛久講師、狩野 修教授、同医学部リハビリテーション医学研究室の海老原 覚教授らの研究グループ。ALSは脳・脊髄などに存在する運動ニューロンが障害される進行性の神経変性疾患であり、発症すると筋力低下にともなう運動障害、嚥下障害、呼吸障害などを引き起こす。現在この運動ニューロン障害を止め、改善する根治療法が存在しないため予後が3~5年と短く、致死的疾患として喫緊に解決されるべき医療課題となっている。
研究チームでは、サイバーダイン(東京都)が展開する歩行訓練ロボット「HAL®️医療用」による歩行訓練を患者11人に取り組んでもらい、訓練前後で歩行能力にどのような変化があったかを観察した。同ロボットは皮膚表面の神経筋活動の生体電気信号(BES)に従って物理的な歩行支援を行う独自の装着型外骨格ロボット装置で、重度障害においても随意的および自律的な歩行訓練が可能であるため、従来の理学療法と比較しても強度の高い訓練が行えることが特徴。既に2016年4月にALSを含む8つの神経・筋疾患に対し保険適用となっているが、臨床試験におけるALS患者の症例が少なかったため、今回の研究を実施したという。
研究では、2019年1月から12月までに同大学でALSと診断された患者で、10m以上の自立歩行はできないものの、介助または歩行補助具を使用して10m以上歩行が可能な患者11名を対象とした。同ロボットによる訓練を1クール(全9回、頻度2-3回/週、1-2か月間。実施時間:装着や休憩を除き20-40分)行い、その前後で2分間の歩行距離、歩行速度、歩幅、歩行率を評価する10mの歩行テスト、ALSの運動機能評価尺度(ALSFRS-R)、Barthel Index(BI)、機能的自立度(FIM)、努力性肺活量を測定、解析した。その結果、平均歩行距離は治療前の73.87mから治療後89.94m(21.7%改善、p=0.004)に延伸したほか、10m歩行の歩行率の平均値も治療前の1.71から治療後1.81(p=0.04)へと改善した。研究チームでは、今回の研究成果は一時的な効果を示すものであり、継続的な訓練により歩行機能をさらに維持、改善できる可能性も考えられ、より大規模な研究で検証する必要があるとしている。