「書く動作」のAI解析で頚髄症をスクリーニング、従来の診察法と同等以上の精度達成 医科歯科大ら

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 東京医科歯科大らの研究グループが、初期症状が乏しく診断や治療が遅れることが多い頚髄症を、日常的に行う動作の一つである「書く」動作を人工知能によって解析することで早期に診断する技術を開発した。市販のタブレット端末の画面上に表示される簡単な図形をなぞることにより手の動きを解析し、頚髄症の有無を高い精度で判別することができたという。

院外や自宅でもスクリーニング可能なシステム

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 運動器機能形態学講座の藤田浩二講師と大学院医歯学総合研究科 整形外科学の山田英莉久大学院生の研究グループは、慶應義塾大学理工学部情報工学科の杉浦裕太准教授のグループとの共同研究で、書く動作に着目し頚髄症※1 の疾患スクリーニングの可能性を示す研究成果を発表した。タブレット端末上に表示した簡単な図形をなぞるときの手の動きを記録し、機械学習アルゴリズムによって疾患の有無を推定するもので、頚髄症の代表的な初発症状のひとつである「書字障害」に着目した手法だ。

 頚髄症は脊髄が徐々に圧迫されていく進行性の疾患であり、進行に伴って手の使いづらさ(巧緻運動障害※2)や歩行障害が現れ、日常生活に大きな支障をきたす。しかし発症初期には症状が乏しく、病院を受診して専門医によって診断される頃にはすでに進行していることが多い。研究グループでは、頚髄症の代表的な初発症状のひとつである手指の巧緻運動障害のうち書字障害に着目し、書字の動作を解析することで頚髄症が有るかどうかを判別するスクリーニングシステムを考案した。

システムは病院外でも活用できるよう、市販のタブレット端末(Apple 社の iPad Pro)とスタイラスペン(同 Apple Pencil)で構成されている。慶應義塾大学と共同で開発した専用アプリケーション上で、画面に表示させた簡単な図形(渦巻き、矩形波、三角波)を被検者にスタイラスペンでなぞってもらう。図形をなぞっている間にペン先の座標と筆圧を経時的に測定し、これらのデータから頚髄症に特徴的な動きを抽出。機械学習※3 を用いて頚髄症の有無を判別する。

 このシステムを用い、頚髄症患者 38 名、頚髄症のない被検者 66 名を対象に疾患の有無を推測させた結果、感度 76%、特異度 76%、AUC※4 0.80 という良好な結果を得た。これは医師による従来の身体診察法と同等以上のスクリーニング精度だとしている。

 研究グループはこの成果について、書字動作を市販のタブレット端末とスタイラスペンのみで計測し、人工知能(AI)によって解析することで頚髄症のスクリーニングを可能とした初めての技術だとしており、特別な医療機器を必要としないことから、病院外、クリニックや一般家庭でも活用できるとメリットをあげている。またこの手法なら被検者に意識させることなく計測することも可能で、例えばこの技術を応用してクレジットカードのサイン等、日常生活中にの動作に浸透させることも可能だという。研究グループは同様に手の使いづらさをきたす疾患である「手根管症候群」のスクリーニングにも成功しており※5、今後も手に障害をきたす他の疾患についても対象範囲を広げていく予定。

※1 頚髄症
頚椎(首の骨)の内部を通る脊髄が圧迫されて起こる進行性の疾患。

※2 巧緻運動障害
手や指が行う細かな作業が困難になった状態。字を書きづらい、箸がうまく使えない、ボタンをかけづらいなどが代表的である。

※3 機械学習
人工知能(AI)の一種。コンピューターが与えられた課題を学習することで自らルールを構築し、未知のデータに対してそのルールにしたがった予測を行う仕組みである。

※4 AUC
Area Under the Curve の略。検査方法の評価項目の 1 つで、0 から 1 の値をとり、1 に近いほど、精4 度の良いことを示す。

※5 Watanabe, T. et al. The accuracy of a screening system for carpal tunnel syndrome using hand drawing. J. Clin. Med. 10, 253. https://doi.org/10.3390/jcm10194437 (2021).

論文リンク:A Screening Method for Cervical Myelopathy Using Machine Learning to Analyze a Drawing Behavior(Scientific Reports)

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Posted by medit-tech-admin