近畿大学の研究チームは16日、次世代シーケンサーによる遺伝子解析結果に基づき、原発不明がんにおける原発巣の推定および治療法の有効性を確認する第2相臨床試験を行い、有効性を示すことに世界で初めて成功したと発表した。研究チームでは今後の標準治療となることが期待されるとしている。
1年生存率53.1%、生存期間中央値13.7ヵ月を達成
成果を発表したのは、近畿大学医学部 内科学教室腫瘍内科部門講師の林 秀敏とゲノム生物学教室を中心とした研究チーム。治療開発が難航している原発不明がんは、原発巣が見つからないまま、リンパ節や肝臓などへの転移のみが出現し全身に広がる希少がんで全がん患者のうち2~5%を占める。診断が難しく病態がさまざまであるなどの特徴から一般的に予後が非常に悪いとされ、より有効な治療法確立が求められている。
この深刻な課題に対し、年間約1,000例以上のがん患者の遺伝子解析を実施し国内有数の実績を誇る近畿大学の研究チームは、従来の解析装置より高速にゲノム解析を行える「次世代シーケンサー(NGS: Next Generation Sequencing)」を用い、原発不明がんに対し原発巣の場所を推定し、そのうえで最も効果が高く副作用が少ない抗がん剤を素早く選び出し治療を行う研究に取り組んだ。国内19施設が参加する第2相臨床試験を組織し、平成27年(2015年)3月から平成30年(2018年)1月の試験期間で、97の症例に対し治療を実施したという。
試験の結果、1年生存率は53.1%、生存期間中央値は13.7カ月、無増悪生存期間※1中央値は5.2カ月となり、過去の同様の原発不明がんに対する治療成績より良好という結果が得られた。研究チームでは、この臨床試験は原発不明がんにおいてNGSを用いて見出された治療法の有効性を報告した世界で初めての第2相臨床試験であるとしており、この結果から、NGSを用いた原発不明がんに対する原発巣推定治療戦略が今後の標準治療となることが期待されるとしている。なおこの成果は論文として、16日付で米医学雑誌「JAMA Oncology」に掲載された。
※1 無増悪生存期間
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪もしくは死亡が確認されるまでの期間と定義される。