赤外線照射で駆動する網膜インプラントとスマートグラスが加齢黄斑変性による視力低下を改善、米ベンチャーが発表

(イメージ)

 現在、根治療法が存在しない加齢黄斑変性による視力低下に対し、網膜にインプラントを埋め込みスマートグラスによる赤外線光照射で稼働させ、不全部分の視力を代替させるデバイスが登場した。研究開発を行う米ベンチャーが、ボン大学(ドイツ)の研究チームによる臨床試験の良好な成果を論文で発表している。

変性で能力を失った細胞を迂回し、網膜にインプラントを埋め込む

(米Science社のホームページより)

 加齢黄斑変性(AMD)は、眼球の中で形や色を見分ける視細胞が密集する黄斑部が、加齢などにより不規則に収縮(地図上収縮)する疾患であり、根治療法は確立されていない。世界的に高齢社会へ移行する中、早急に治療法開発が待たれる疾患のひとつでもある。

 今回成果を発表した米Science社は、この疾患に対するソリューションとして、機能を失った黄斑部の上層細胞を迂回し、下層の双極細胞に直接アクセスするインプラントを埋め込み、稼働させる技術を持つ。このインプラントは、独立して制御されるピクセルがハニカム状に配列されており、微細な双極細胞に対応できる大きさとなっている。

(米Science社のホームページより)

 インプラントには赤外線に反応して電力を発生する回路も埋め込まれている。ここには適宜、専用のスマートグラスから稼働させたいピクセルにのみ赤外線が照射され、接触している双極細胞が刺激されることで視力が改善するというメカニズムだ。

臨床試験により目覚ましい成果が確認される

(同社が同試験について公開した動画)

 同社はボン大学(ドイツ)の病院眼科部長でもあるフランク・ホルツ博士らの研究チームとともに、5カ国17施設の臨床施設において38名の患者を対象に、このデバイスの能力について評価した。結果、以下のような成果を確認できたという。

    • ETDRS 視力表※1で平均 25.5 文字 (5 行以上) の改善
    • 患者の 84% が文字、数字、単語を読む能力を報告、機能的な中心視力が回復
    • 患者の 80% が 12 か月時点で少なくとも logMAR 0.2 (ETDRS チャートの – 10 文字に相当) の有意な義眼視力改善を達成した (p<0.001)。
    • 平均既存周辺自然視力の有意な低下は観察されなかった
    • インプラントは萎縮黄斑下に安全に移植でき、重篤な有害事象は主に移植後2ヶ月以内に発生したが、その95%は2ヶ月以内に消失

 この良好な試験結果を受け、同社では欧州規制当局の承認申請を完了。来年にはこのデバイスを上市する予定で、米国でもFDA(米国食品医薬品局)の承認手続きが進行中だとしている。

※1 眼科領域の臨床研究や、ロービジョンの測定で広く使用されている視力表。40Hから2Hまでのサイズで5つの文字列が横に並べられ、4メートルの検査距離で小数視力0.1(logMAR値+1.0)から小数視力2.0(logMAR値-0.3)までの視力を測定できる

論文リンク:Subretinal Photovoltaic Implant to Restore Vision in Geographic Atrophy Due to AMD(New England Journal of Medicine)