ゲノム解析に基づいた個別化医療による患者予後の改善が期待される中、日本で展開されている大規模ながんゲノム解析プロジェクトで、リキッドバイオプシーによるスクリーニングで予後を改善できたことを示す研究成果が発表された。年単位ではないものの、約2倍に改善できたとしている。
生存期間の中央値が約2倍に
血液内のがん遺伝子情報を調べる検査である「リキッドバイオプシー」は、従来の組織生検と比べ患者への侵襲度が低く、繰り返し検査が可能、さらに複数箇所のがんの可能性を同時に調べられ、遺伝子発現レベルで患者ひとりひとりに適した治療法を提示できるという複数の利点を持ち、近い将来にがんスクリーニングの標準検査となることが期待されている。しかしこれまで、リキッドバイオプシーに基づいた治療の効果、およびアウトカムとしての予後改善ははっきりとは示されていなかった。
国立がん研究センター東病院が推進する産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクトSCRUM-Japan MONSTAR-SCREENの一部として開始したSCRUM-Japan GOZILAプロジェクトは、2018年よりリキッドバイオプシーを使った個別化医療の臨床研究を行なっており、今回、研究に参加した4,037名の進行がん患者を対象にその効果を検証した。
研究の結果、まず参加者の24%が、リキッドバイオプシーの結果に基づきそれぞれに適合した標的治療を受けることができていたことを確認した。次に、リキッドバイオプシーに基づいて標的治療を受けた患者は、そうでない患者と比べ生存期間が約2倍長くなることが明らかになった(図2)。具体的には、標的治療を受けた患者さんの生存期間の中央値は18.6か月であったのに対し、そうでない患者は9.9か月だった(ハザード比0.54)。また、治療につながるバイオマーカーが見つからなかった患者(生存期間中央値:16.8か月)も、バイオマーカーがあったにも関わらず適合する治療を受けなかった患者より生存期間が長いことが確認された(ハザード比0.60)。この結果は、遺伝子の変化が時に治療の抵抗性に関わることを考慮すれば、バイオマーカーが無かった患者はそのような治療抵抗性に関わる遺伝子の変化も無かったことが長い生存期間につながっている可能性を示唆している。
研究ではリキッドバイオプシーで見つかったバイオマーカーの特徴も詳しく分析した結果、遺伝子変異のクローナリティ(がん細胞全体に占める変異を持つ細胞の割合)や補正血漿コピー数(血液中のがん由来のDNA量で補正した遺伝子の血漿コピー数)が高い症例で治療効果がより高いことが分かった(図3)。この発見は、将来的により精密な治療選択につながる可能性がある。
研究チームでは、この研究は「リキッドバイオプシー」に基づくがん個別化治療の生存期間延長効果を様々ながんで大規模に示した初めての研究であり、今後のがん治療の進歩に大きく貢献することが期待されるとしている。