横浜市立大学とNTTデータ、「Tele-ICU」システムを2020年10月より実稼働

遠隔ICUシステム「Tele-ICU」の支援センター

横浜市立大学とNTTデータは、遠隔でICU専門医が患者のバイタルなどをリアルタイムで確認でき、担当医を支援できる遠隔ICUシステム「Tele-ICU」を構築し、2020年10月より運用を開始すると発表した。9月末まで模擬患者による運用の検証を行い、10月から本格稼働する。

遠隔で「リアルタイム」に患者情報を共有

現在、日本国内のICU病床は約17,000床※1あるが、集中治療専門医は約1,850名であり、人材不足が常態化している。専門医が十分でない医療機関では、外科・内科系医師が重症患者に対応しながら成り立っている状況だといわれる。重症患者の治療は昼夜を問わない手厚い医療体制が必要であり、医師の長時間勤務や精神的負担の一因ともなっている。

こうした状況を受け、横浜市立大学は、支援センターに常駐する集中治療専門医と、ネットワークを介して連携先施設の医療従事者がリアルタイムにコミュニケーションを取れる遠隔ICUシステム「Tele-ICU」構想を立案。システム構築に関してはNTTデータが担当している。

図2:Tele-ICUシステムの管理画面イメージ
図2:Tele-ICUシステムの管理画面イメージ

「Tele-ICU」では、患者のバイタル情報やリアルタイム映像、電子カルテ情報を集中治療専門医が常駐する「支援センター」と複数の医療機関のICUがネットワーク経由で共有することで、遠隔での診療を支援する。具体的には以下の項目について、同意が得られた患者の情報を支援センター側に提供する。

(1)患者のバイタル情報(体温、心拍、血圧、酸素飽和度等)や検査結果などのデータ
(2)上記(1)のデータから3分おきに算出する「重症度スコア」注2
(3)連携先施設の電子カルテ情報

(4)患者のリアルタイムの映像情報

同システムは「統合管理画面」で全連携先施設の同意済みの患者情報を参照でき、「病院別管理画面」では連携先施設ごとの患者一覧から、電子カルテや医療画像(PACS)など各種部門システムを参照できる。システムの活用により、支援センターの専門医がリアルタイムで患者情報をモニタリングし、連携先施設の担当医と治療方針の相談を行えるため、医療の質の向上、医師の負担軽減が期待できるとする。また新型コロナウイルス感染症の診療においても、医療従事者の感染防御などの観点から効果が見込めるという。

横浜市域内の3病院で10月より稼働

連携先施設等 横浜市立大学附属病院 ICU8床、HCU8床
横浜市立大学附属市民総合医療センター GICU8床、HCU10床
横浜市立脳卒中・神経脊椎センター HCU6床

今回実稼働するシステムは、支援センターを横浜市立大学附属病院内に設置。3つの連携先施設等(計40床)を対象に遠隔による診療支援を行う。今後、9月末まで模擬患者による連携予定施設からの患者情報の共有など、運用について検証を行ったのち、2020年10月から、連携先施設の実患者に対して平日日中帯の診療支援を順次開始する。また両者は、さらなる連携先施設拡大と機能拡充を行っていく方針という。

「Tele-ICU」システム構想の提唱者で、実用化に向け取り組んでいる横浜市立大学医学部 集中治療部 部長の高木俊介氏(集中治療・救急専門医)は「今後、遠隔診療は幅広く普及していくことが予想される。我々のチームは現在、より汎用性の高いTele-ICUシステムの開発を行っており、どのような病院にも導入可能な安価なシステムを構築しているので、是非興味がある方はお声がけいただきたい」と、Med IT Techの取材に答えた。

※1 特定集中治療室管理料(5,211床)、救命救急入院料(6,411床)、ハイケアユニット入院医療管理料(5,412床)を算定している病床の合計。平成30年7月1日時点。(「中医協総-2-1 元.9.11」)
※2 重症度スコア:病態の重症度を客観的に評価するための指標で、12個の生理学的変数、年齢、および基礎疾患に基づき、0~71の範囲で点数を算出するAPACHEⅡや、重要臓器の障害程度を点数評価するSOFAなどがある。