札幌医科大と九州大、映像圧縮技術を活用した一般回線での遠隔プロクタリング実験 平均遅延0.02秒を達成

 次世代の高速回線を活用した遠隔医療の進展が期待されているが、札幌医科大と九州大学の研究チームが、専用回線ではない一般のインターネット回線上で、映像圧縮技術を用いた遠隔プロクタリングの実証研究を行なった。医療分野での技術提供の経験が豊富な天馬諮問(東京都)の遠隔手術指導支援システムを使用したもので、2回にわたる実証研究の結果、内視鏡のパススルー映像とプロクタリング画面間の遅延を平均0.02秒にまで縮めたという。

専用回線使わず、最大伝送速度100Mの一般回線を使用

札幌・福岡間の離れた2拠点のディレイだけでなく、手術室内内視鏡映像と遠隔指導画面のディレイもほとんど気にならない程度に 調整できたとする

 実証研究を行ったのは、札幌医科大学消化器・総合、乳腺・内分泌外科の竹政伊知朗教授と九州大学病院消化器・総合外科、消化管外科の沖英次診療准教授。映像圧縮伝送技術開発を行う天馬諮問がシステム提供し、同社のリアルタイム遠隔手術指導支援システムTELEPRO(テレプロ)を活用して2021年3月、9月の2回にわたり行われた。

具体的には、九州大学病院の手術室から内視鏡カメラ1台、術者や助手の手の動きなどを俯瞰撮影する外部カメラ2台の計3台の映像と音声を入力、約2000km離れた札幌医科大学医局から指導医が音声、映像、アノテーション描画を送り返すことでリアルタイムでの指導を行った。回線は専用回線ではなく伝送速度最大100Mbpsの一般インターネット回線を使用し、専用回線を敷設できない施設でも今後実用可能なようあえて増強しなかったという。

遠隔でアノテーション描画を送信しリアルタイム指導を行う竹政伊知朗教授

 1回目の実験(3月19日)では、アノテーション描画を表示する遠隔プロクタリングのサブモニター画面と、術者がその映像を見ながら手術を行う内視鏡カメラからのパススルー映像間でわずかな遅延(0.1~0.2秒程度)が発生したため、システム構成やハードの見直しおよびルーティングを改善。2回目(7月6日)の実験では内視鏡メインモニターと遠隔プロクタリングサブモニターとの遅延を最速で0.0135秒、平均で0.02秒にまで縮めた。

 指導側で実証研究を行なった札幌医科大学の竹政伊知朗教授は「リアルタイム指導における許容できるディレイの感覚は0.25秒以内。0,25秒のディレイは通常の会話では気にならなくとも、手術指導の現場では致命的。ディレイ平均0.02秒を達成できたことの意義は極めて大きい。アフターコロナでは学会の在り方が大きく変わることが予想される。この技術は北海道モデルとして国内のみならず国際的な拡がりの可能性を秘めており、学会や、種々のライセンシング取得支援にも活用を拡大し、臨床―教育―研究三位一体のインフラ構築に取り組みたい」とコメントしている。