複数の精神疾患治療でオンライン診療を組み合わせた診療フローと従来の対面診療のみのフローを比較した大規模な比較試験が行われ、オンライン診療が非劣性であることを示す研究報告が発表された。加えて、オンライン診療を取り入れた場合の方が診察時間が短く、費用も少なかったという。
研究成果を発表したのは、慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座の岸本泰士郎特任教授ら J-PROTECT 共同研究グループ※1。精神科領域の外来診療は、患者と医師との会話が診療の大部分を占めるためオンライン診療と親和性が高いといわれているが、診療報酬上の制限が強いこともあり精神科領域でほとんど利用されていない。普及するには、国内の医療環境でのエビデンスが求められている状況だ。
研究グループでは今回、通常の保険診療の枠組みで、オンライン診療と対面診療との治療効果や、治療継続率、患者さんの満足度などを比較することを目的に試験を実施した。うつ病、不安症、強迫症の外来患者を対象に、オンライン診療を用いるグループと用いないグループに分け、24 週間の外来治療を行った(図 1)。研究当時のガイドラインに基づき、オンライン診療を用いるグループは対面診療も一部併用した(ただし全診療の 50%以上をオンライン診療とする)。有効性の評価には、SF-36MCS という精神的側面の QOL サマリースコアを用いた。
試験は日本の 11 都道府県にわたる 19 の医療機関で行われ※1、199 名の患者が参加。オンライン診療併用群における平均オンライン使用割合は 77.0%で、試験の結果、主要評価項目の SF-36MCS についてオンライン診療併用群は 48.50±9.57、対面診療群は46.68±10.58であり、SF-36MCSの群間の平均値の差の両側95%信頼区間は下限値-1.12、上限値 4.77。両側 95%信頼区間の下限値が非劣性マージン(-5.0)を上回ったため、対面診療群に対するオンライン診療併用群の非劣性が確認できた。また、治療継続率、満足度など、多くの副次評価項目についても両群に有意差は認められなかった。一方、オンライン診療併用群では、対面診療と比較して通院時間が短く、通院費用も安価だった。
研究グループは、今回の試験は国内で初めて実施された、大規模かつ実臨床に即したオンライン診療の無作為化比較試験であるとしており、オンライン診療が対面診療と同等の有効性をもつことが確認されたことの意義は大きいとしている。
※1 J-PROTECT メンバー
慶應義塾大学:岸本泰士郎、木下翔太郎、北沢桃子、菊地俊暁、佐渡充洋、三村將、佐藤泰憲、竹村亮、長島健悟
大阪医科薬科大学:金沢徹文、木下真也、川端康雄
京都府立医科大学大学院医学研究科:精神機能病態学 中前貴、阿部能成
神戸大学:菱本明豊(研究当時:横浜市立大学)
横浜市立大学:須田顕、服部早紀、阿部紀絵、井出恵子、吉見明香、浅見剛
東北大学:富田博秋、阿部光一
医療法人社団慈泉会 市ケ谷ひもろぎクリニック:渡部芳徳(故人)、本郷誠司
日本赤十字社栃木県支部 足利赤十字病院:船山道隆
社会医療法人 公徳会佐藤病院:文鐘玉
社会医療法人 あさかホスピタル:佐久間啓、喜田恒、辻井崇
医療法人長尾会 ねや川サナトリウム:長尾喜一郎、寺師隆平
医療法人真愛会 髙宮病院:高宮眞樹、児玉英之
医療法人三精会 汐入メンタルクリニック:阿瀬川孝治、後藤健一
医療法人社団横浜天仁会 あまがいメンタルクリニック:天貝徹、田村元
医療法人滔々会 金沢文庫エールクリニック:藤原修一郎
公益財団法人復康会 沼津中央病院:杉山直也、野口信彦
国際医療福祉大学成田病院:佐藤愛子、橋本佐
医療法人学而会 木村病院:木村大
公益財団法人復康会 大手町クリニック:日野耕介
医療法人和楽会 赤坂クリニック:貝谷久宣、髙宮彰紘