高齢者にとって話しやすいロボットとは? 筑波大がロボットの「好ましい性格」を研究

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高齢社会進行にともない、独居高齢者をはじめとした「高齢者の孤立」が社会課題となりつつあり、そのソリューションのひとつとしてコミュニケーションロボットの活用が提唱されている。その「性格」に関して、筑波大学の研究グループが興味深い論文を発表した。

家族の会話を「仲介」するロボットに好ましい性格とは?

論文の図説より

筑波大学システム情報系の田中文英准教授らの研究グループは、日本の高齢者を対象とした調査研究を行い、高齢者の話し相手となるロボットは、どのような性格を持つことが望ましいかを明らかにした。まず、21人の高齢者(平均年齢72歳)を対象に、ロボットを通して話す場合と、通常の電話を通じて人と話す場合との比較実験を実施。いずれの場合も、高齢者が家族(娘)に対し、最近楽しかったことや忘れられない経験など特定の話題について話すという設定とし、ロボットの場合は、ロボットが仲介して話の内容を家族に伝える(図2)という設計とした。

その結果、経済的基盤の喪失や、知り合いとの死別など社会的つながりの喪失、心身の健康・生きる目的の喪失など、喪失経験(lossexperience)に関する話題では、表出性のあるロボット(身ぶり手ぶりや話し方に抑揚を付けるロボット)のほうが、表出性のない機械的なロボットや、電話を通じて人と話す場合よりも話しやすいことが判明した。統計的な有意差も確認したという。

次に研究グループは、こうした「話しやすい」ロボットが持つべき性格特性(キャラクター)を探るため、720人の高齢者(平均年齢69.8歳、最終的な解析対象は589人)を対象にオンライン調査を実施した。その結果、高齢者が自己開示をしやすいロボットの性格についての、詳細で具体的な知見が得られたという。

例えば、▽内向的で神経症的傾向の強い高齢者を対象に健康に関する話題を話す際には、ロボットの性格は逆に外交的かつ大らかに設計するべきであること▽外向的で神経症的傾向の強い高齢者を対象に、孤独に関する話題を話す際は、ロボットは内向的かつ大らかに設計すべきであることなど、10種類以上の設計指針が調査結果から推奨できることがわかった。人とロボットの関わりを研究する「Human-RobotInteraction」の研究分野では従来、「対話ロボットやAIの性格はユーザの性格に合わせるべき」と言われていたが、今回の調査研究で、話す内容や高齢者の性格によっては、むしろ逆にロボットの性格をマッチさせない方が好ましいことなどが明らかになったとしている。

悩みごとを自分1人で抱え込まず、他者に打ち明けられることを「自己開示」というが、この自己開示が高齢者の社会的孤立を防ぐ上で非常に重要であることが知られている。研究グループでは今回の研究により、高齢者の自己開示を促進するための手段として、コミュニケーションロボットが有力である可能性が示されたとし、また研究成果が今後、メーカーなどが高齢者向けの対話ロボットやAIを開発する際の有用な設計指針となることが期待されるとした。

研究グループでは、ロボットやAIに関し、性格以外のさまざまな要素(外装素材、自律知能など)についても研究開発を進めるとしている。今回の研究成果は、Human-RobotInteractionに関する科学誌「ACMTransactionsonHRI」のVol.9,No.3(2020年5月)で公開されている。

論文リンク(抄録):Personality Traits for a Social Mediator Robot Encouraging Elderly Self-Disclosure on Loss Experiences

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