生成系AIの基礎技術として知られている、当時のGoogle Brainが開発した人工知能(AI)モデル「Transformer」の医療応用について検討した研究が発表された。肝細胞がんの根治術として知られるラジオ波焼灼術(RFA)を受けた患者の予後予測に関するもので、従来モデルによる予測より精度が高い結果が得られたという。
TransformerモデルのAIがディープラーニングベースのAIを上回る
研究成果を発表したのは東京大学医学部附属病院 検査部の佐藤雅哉 講師(消化器内科医)、消化器内科の中塚拓馬 助教、建石良介 准教授、小池和彦 東京大学名誉教授、藤城光弘 教授らの研究グループ。RFAは肝癌に対する有用な根治術として広く医療現場で採用されているが、肝がんは再発率が高いため、予後を正確に知ることは患者に対する個別のインフォームド・ コンセントの実施や治療計画の決定にも重要とされている。2017年にGoogle brain の研究チーム(当時)によって開発された AI モデル「Transformer」は、 ChatGPT (Generative Pre-trained Transformer)のベースにもなっているAIモデルであり、自然言語処理や画像解析の分野において従来の深層学習の技術を凌駕する研究成果が複数出されている。研究グループはこのAIモデルをRFAを受けた患者の予後予測に応用し、判別能等を検証した。
具体的には、1999年2月から2019年12月までに東京大学医学部附属病院 消化器内科で肝細胞がんの初回 RFA 治療を受けた1778人のデー タを、機械学習モデルの訓練を行うための訓練データ(1422人)、最適な学習パラメーターを抽出するための検証データ(178 人)、作成された機械学習モデルの精度を検証するためのテストデータ(178 人)の 3 つに分割し検討した。機械学習モデルを作成するためRFA 治療時点における16個の変数を抽出※1し、訓練データと検証データを合わせた計1600人の患者データを用い、機械学習モデルを「Transformer」と「従来の深層学習」 それぞれについて作成。独立したテストデータ178人の患者情報を用いてモデル精度の評価を行った。
テストデータを使用した精度評価において、Transformer モデルをベースに開発したAIと従来の深層学習モデルをベースにしたAIの c-index※2はそれぞれ 0.69 と 0.60 であり、Transformer を基にした機械学習モデルがより高い精度を示した。またTransformerモデルの使用により、外部テストデータを2群(図 1)又は3群(図2)の異なるリスクグループに分類することができた。
※1:患者背景情報(年齢・性別)、肝臓の線維化マーカー(血小板)、 炎症マーカー(AST、ALT)、腫瘍マーカー(AFP・AFP-L3 分画・PIVKA-2)、肝機能指標(総 ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン)、肝炎ウィルス(HBs 抗原・HCV 抗体)、肝がんの個数、最大腫瘍径、飲酒歴の有無
※2 c-index:生存や事象発生時間の予測精度の指標(0~1 の値)で、1 に近いほど精度の高い予測を行えて いることを表す。
研究グループではさらに、Transformerをベースに開発したAIで、治療後経過の予測の出力を個々の患者に対して行うことが可能であることを示した(図 3)。研究グループは今回開発したAIの精度はまだ臨床応用できるレベルではないとしているものの、さらに研究を進めることで、患者ごとの疾患リスクに応じたインフォームド・コンセントを含む診療の個別最適化が期待できるとしている。
論文リンク:Development of a transformer model for predicting the prognosis of patients with hepatocellular carcinoma after radiofrequency ablation(
Hepatology International )