救急往診サービスを展開するファストドクター(東京都)と筑波大学は、救急往診要請のあった患者との電話問診のさい、実際の緊急度よりも低く見積もってしまう「アンダートリアージ」のケースを予測するAIモデルを開発したと発表した。また研究成果として、そうしたケースが起きやすい疾患、主訴などについても公表した。
新型コロナウイルス感染症の自宅療養者に対する対応など、救急往診のニーズは日本でも高まっている。ファストドクターが展開する救急往診サービスにおいては、患者から電話を受けると、主訴別に作成された「緊急度判定プロトコル※1」」(総務省消防庁)に基づき、救急⾞は必要か不要か、病院受診は必要か不要かなどの緊急度判定を行なっている(トリアージ※2)。ここでもし実際の緊急度よりも低く判定されると(アンダートリアージ※3)、患者の予後が悪くなるリスクが発生する。
近年の先行研究で、救急外来においては機械学習を⽤いた予測モデルを導⼊することでアンダートリアージが減少したという報告がされているが、救急往診サービスについては同様の研究はまだ行われていない。そこで同社と筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野/ヘルスサービス開発研究センターの⽥宮菜奈⼦教授、井⼝⻯太准教授 らの研究チームは今回、機械学習を使いアンダートリアージとなる症例を予測するモデルを作成、判別能の検証を行った。
救急往診サービスでは、患者から電話がかかってくると緊急度評価を5段階で⾏う(図1左)。病院受診が必要と判断された、⻩⾊・橙に分類された患者を対象に往診を⾏う(図1橙枠)。今回は、救急往診サービスの医師が⻩⾊・橙の患者を診察後、3段階で緊急度の評価を⾏い(図1上)、救急⾞が必要であったと判断したものをアンダートリアージと定義した(図1⾚枠)。
具体的には、2018年11⽉1⽇〜2021年1⽉31⽇にファストドクターを利⽤した16歳以上の全ての患者の匿名化データ、4万4982人のうち1万9114⼈分のデータが分析対象となった(図2)。対象項目は年齢、性別、併存疾患(10項⽬)、主訴(80項⽬)。この中でアンダートリアージの患者は298⼈(1.6%)だった。対象患者さんの平均年齢は38.4歳、57.2%が男性、主な合併症は⾼⾎圧と慢性肺疾患、主な主訴は感冒症状と失神だった。
図 3 各モデルの受信者動作特性曲線(ROC)と受信者動作特性曲線下⾯積(AUROC) ⾚⾊がランダムフォレストであり、最も AUROC が広い (予測性能が⾼い)。 サポートベクターマシン(SVM)、ラッソ回帰(LR)、ランダムフォレスト(RF)、勾配ブースト決定⽊ (XGB)、ディープニューラルネットワーク(DNN)
機械学習には、サポートベクターマシン(SVM)、ラッソ回帰(LR)、ランダムフォレスト(RF)、勾配ブースト決定⽊(XGB)、ディープニューラルネットワーク(DNN)の五つのアルゴリズムを使い、それぞれのモデルの性能を評価した。この中で最も性能が良かったモデルにおいて、どの情報があるとアンダートリアージになりやすいかも調べた。作成したモデルの中では、ランダムフォレスト(RF)を⽤いたものが最も予測性能が良い(図3)結果となった。年齢では⾼年齢、合併症では⾼⾎圧、糖尿病、脳梗塞、認知症、主訴では感冒症状、頭痛、アレルギー反応があると、アンダートリアージになりやすいことも分かった。
研究グループでは今回の研究で、これまで知られていた⾼年齢や合併症だけでなく、感冒症状、頭痛、アレルギー反応といった主訴もアンダートリアージに関連していることが⽰されたとしている。今後、今回作成したモデルを救急往診サービスに導⼊し、実際アンダートリアージが減少したかどうかの効果検証を⾏う予定だ。
※1:プロトコル
⼀般的には系統だった疾患の診断・治療⼿順を指す。ここでは、主訴別に系統だったトリアージ⼿ 順を指す。
※2: トリアージ
患者の緊急度に基づいて、医療・治療の優先度を決定して選別を⾏うこと。
※3:アンダートリアージ 実際の緊急度より低く判定されてしまうこと。治療介⼊の遅れによる予後の悪化につながる。
論文リンク:Machine Learning Models Predicting Undertriage in Telephone Triage(Annals of Medicine)