学習支援やリハビリテーションの場において、人間ではないロボットやCGのアバターから褒められても学習効果が向上し、複数から褒められればさらに効果が上がる—。筑波大学らの研究チームはこのほど、実際にロボットやアバターを使った検証を実施しその可能性を導き出した。慢性的な人手不足の中、医療介護分野のリハビリテーションに役立つソリューションに繋がるか注目される。
複数から褒められた方がパフォーマンス向上、しかも褒め手の種類は問わない
成果を発表したのは、筑波大学システム情報系の飯尾尊優助教と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)インタラクション科学研究所 エージェントインタラクションデザイン研究室の塩見昌裕室長らを中心とする研究グループ。一般的に人は他者から褒められると金銭的報酬を得たのと似た脳活動が起き、精神的な満足感や運動技能習得を促進させることが分かっているが、人間ではないロボットなどから褒められた場合にどうなるかについてはこれまで明らかにされていないという。今回研究チームは、運動技能習得の場面において、人間ではないロボット、CGキャラクターの2種のエージェントが被験者を褒めた場合に、被験者の反応を検証する実験を行った。
具体的には、96人の大学生に、ある連続的な指の動かし方を覚えてもらうトレーニングを行う実験を行った。このとき「褒める/褒めない」「褒めるのは単体/複数」「ロボット/ CGキャラクター」の3軸で6つのグループに分け、それぞれの反応の違いを観察した。その結果、以下のことが分かったという。
・褒められないより褒められた場合の方が、次の日の運動パフォーマンスが有意に向上
・褒めるエージェントが1体よりも2体の場合の方が、次の日の運動パフォーマンスが有意に向上
・褒めるエージェントが1体の場合、CGキャラクターとロボットの間に運動パフォーマンスの差は認められなかった
研究グループでは、この結果は褒め手が物理的か仮想的かに関わらず、ヒトのかたちをした「身体性」を持つエージェントからの褒めが、運動技能習得能力の向上に効果があることを示した点に意義があるとした。さらに別の意義として、褒めの総量が同じでも、エージェント1体の場合よりも2体の場合において褒め効果が強かった点は、褒めの質や量より「たくさんの他者に認められること」のほうが重要である可能性を示唆していると指摘している。なおこの成果を示した論文は、学術誌「PLOS ONE」のオンライン版に2020年11月4日付で掲載されている。