認知症高齢者に対するコミュニケーション技法として知られる「ユマニチュード」。この技法の熟練度をAIで判定する技術が日本で開発された。認知症高齢者が増加の一途をたどるなか、介護を受ける側、提供する側両方に笑顔を増やすと言われるこの技法の普及を後押しするか注目される。
熟練者の「視線でのコミュニケーション」を教師データに
AIを開発したのは、京都大学大学院情報学研究科 中澤篤志 准教授、九州大学大学院システム情報科学研究院 倉爪亮 教授、京都大学こころの未来研究センター 吉川左紀子 特定教授、東京医療センター 本田美和子 医師らの研究チーム。認知症の介護者/被介護者の負担感を減らすとされる介護技術「ユマニチュード」を、介護の初学者や家族介護者が確実に学べる方法の開発に取り組んできたという。
「ユマニチュード」とは、フランス人体育教師だったイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって1979年に考案された高齢者ケアの技法で、認知症高齢者に対し「見る」「話す」「触る」「立つ」における、相手を尊重する優しいアプローチによりストレスを和らげる効果があるとされる。この技法を取り入れることで認知症周辺症状が緩和したという報告も多く、現在はフランス以外のベルギー、ポルトガル、スイス、ドイツ、日本などでこの技法を取り入れる動きが盛んになっており、特に2017年には福岡市で日本初の実証研究も行われた。日本における普及の取り組みは、研究グループ中の東京医療センターの本田美和子医師を中心に行われている。
こうした取り組みの広がりの一方で、習得は人対人による訓練によってのみ行われるため、多くの人に確実に伝えることが困難だという課題があった。この課題に対し研究グループは、画像認識、センシング技術を使い、AI を用いて解析することで「技術のコツ」を見出し、自己学習システムなどを通し、技術レベルを自動的に評価 ・自己学習できるようにする手法の開発を目指した。
具体的には、初心者/中級者/熟練者(インストラクター)の介護動作中の目線や頭部の動きを、頭部装着カメラ(ウェアラブルカメラ)で撮影。ここから、顔検出技術、アイコンタクト検出技術などを使って、介護者と被介護者の間のアイコンタクト成立頻度や頭部の姿勢/距離などを検出した。その結果、初心者/中級者/熟練者の間で、アイコンタクトの成立頻度や顔間距離、顔正対方向の角度において大きな差があることを見出したという(図1)。
こうして得られた14名のユマニチュード初学者 ・中級者 ・熟練者から得られたデータを統計的データ分析処理(主成分分析)すると、初心者と中級者、熟練者の間に明確な境界を見出すことができた(図2)。これは、介護者の動作スキルの評価が AI によって行える可能性を示しているとする。
今後このAIの実証実験を予定
研究チームによれば、この評価はサーバー上で自動的・大量に処理できるため、人の主観による評価によることなく、学習者はいつでも/どこでも自分の介護スキルの振り返りを行うことができ、介護技術を向上させることができるという。今後、本システムを国内の大学に展開し、医療/看護系学生のセルフトレーニングに活用する実証実験を計画している。なお、この研究成果は、2019 年7月4日付で国際学術誌「Journal of Intelligent Robotics Systems」誌のオンライン版に掲載されている。