VR学習では「触覚」「コミュニケーション」に関する技能習得が不十分 筑波大が調査

 筑波大学の研究グループが、診療放射線技師の学習にVR教育システムを活用した場合の技能習熟度に与える影響を評価したところ、従来の学習法と同等の効果が得られた技能項目がある一方で、「触覚」や「コミュニケーション」を必要とする一部の技能項目では習熟度を低下させることが分かったと発表した。今後の教育コンテンツ開発への重要な示唆となる可能性がある。

自身による「過大評価」の可能性も示唆

 調査をまとめたのは筑波大学システム情報系の黑田嘉宏教授をはじめとした研究グループ。VR(仮想現実)技術の医療分野の応用については、手術のシミュレーションや医療従事者への技術教育にその可能性が期待され、各社のコンテンツ開発も進んでいる。特に診療放射線技師の教育においては、被ばくすることなく訓練が行え有用性が高いと考えられているという。そこで研究グループでは、診療放射線技師の学習にVR教育システムを活用し、学習に与える影響を評価した。

具体的には、診療放射線技師養成学校の学生30名を、ランダムにVR教育システムを使った群15名と従来の実機を使った演習を実施した群15名に分け約1時間の訓練を実施した。その後2週間以内に実機を用いた実技演習を行い、ルーブリック評価法を用いて教員が習熟度を評価した。その結果、従来の学習法と同等の学習効果が得られた技能項目がある一方で、とりわけ、触覚やコミュニケーションを必要とする技能項目では従来よりも有意に習熟度が低下することが明らかになった。

また、研究グループではVR教育システムにおける自己学習の有用性を検討した。従来の学習法では、技能習得するために撮影装置や患者役が必要であるため場所や時間に制約があるが、VR教育システムではそれらの制約がないため、より有用な学習機会の増加につながる可能性があるためだ。そこで、あらかじめ作成した評価表をもとに、VR教育システムを用いた場合の教員による客観的な習熟度評価と学習者自身による習熟度評価を同時に行って比較したところ、一部の項目で学習者が過大評価することが分かった。

研究グループでは、以上のことから、触覚やコミュニケーションを必要とする教育においてはVRを用いた場合に十分な学習が行われない可能性に注意するとともに、即時的な外部評価を取り入れた新たな教育システムの開発・評価および運用を進めることが重要であることが示唆されたとしている。

論文リンク:Radiography education with VR using head mounted display: proficiency evaluation by rubric method(BMC Medical Education)