英国ケンブリッジ大学の研究グループが、構音障害で発話に困難さを抱える患者を援助する新しいデバイスを開発した。首を覆うように装着するチョーカーのような形態で、繊維の中に織り込まれたセンサーと、その計測結果を効率よく解析する人工知能(AI)を搭載しており、患者の意思を汲み取って文章を完全なかたちで表現できるという。
精密なセンサー搭載、大規模言語モデルを活用する『スマートチョーカー』
声道の神経筋制御が損なわれる重度の運動言語障害である構音障害は、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、パーキンソン病などの神経疾患の患者にあらわれる。コミュニケーションが困難になることで、適切なリハビリテーションの実施が難しくなったり、精神的孤独が強まりメンタルヘルスが損なわれるなどのQOL(生活の質)の低下が起こる。四肢麻痺などの他の部位においても重度の障害をもつ患者には、視線入力装置などのシステムが使われるが、喉頭筋や顔面筋の一部が動く患者にとって、使いやすいソリューションは存在しない状況だ。
研究チームが開発した「Revoice」は、発話に関係する残存能力が残っている患者にとって、その能力を活かしながらリハビリテーションやコミュニケーションを行える、軽量なスマートデバイスとなっている。
デバイスは、繊維に組み込まれたセンサーと、機械学習モデルおよびLLMエージェントからなるソフトウェアで構成される。伸縮性のあるニット生地にスクリーン印刷された歪みセンサー、無線読み出しプリント基板が組み込まれており、患者のサイレント表現(発声音のない状態での無音の口の動き)を捉え、まずは発声したい単語を解読する。同時に歪みセンサーは脈拍を計測しリアルタイムに患者の感情をセンシングし続けており、その情報を活用し、解読した単語からLLM(大規模言語モデル)を稼働させ、適切な文章の形式に補完、整形する。
デバイスの能力を検証するため、研究チームは構音障害のある脳卒中患者5名と健常者10名を対象に小規模な試験を実施した。参加者はデバイスを装着し、短いフレーズを口パクで発音した。2回頷くことで、埋め込まれたLLMを用いてそのフレーズを文章に展開することができたという。ある例では、「病院に行きます」という表現が「少し(時間が)遅くなってきていますが、まだ気分が悪いです。もう病院に行ってもいいですか?」と変わった。参加者の心拍上昇と夜遅くなってきたことからイライラしていることを推測し、LLMが文章に補完して表現したのである。なお単語誤り率は4.2%、文誤り率についてもわずか2.9%だった。
研究チームは、このデバイスは構音障害を抱える人たちが自立を取り戻すためのものであると意義を強調しており、今後、構音障害患者を対象としたより大規模な臨床研究を2026年中にも開始したいとしている。