アクセラレーションのかたち①:慶應 健康医療ベンチャー大賞(前編)
オープン・イノベーション。この言葉が日本の医療のイノベーションシーンにもようやく根付いてきた。
リソースが限られるベンチャーが自らの技術やアイデアを商品化するためには、そのコアになる技術/アイデアを磨き上げ、必要な資金を調達し、市場価値を評価し、市場投入/上市を共に担ってくれる外部の伴走者やスキームが必要となる。医療のイノベーションでは創発の主体が医療者であることが、さらにその傾向に拍車をかける。医療以外のリソースに触れる機会が少なく、アクセスするコネクションも持っていないことが多いからだ。
この課題を解決する動き、つまり医療/ヘルスケア分野のベンチャーをオープン・イノベーションの手法で支援する具体的な取り組みが、この2-3年のあいだに見られるようになってきた。その中でも、アイデアをピッチさせ、メンターが評価しフィードバックや自らの知見を与え、ビジネスプランにまで落とし込ませる機会を提供する、いわゆる「アクセラレーター」が日本にも増えてきたのである。
商品化/上市までの道筋「イノベーション・パイプライン」において、大きな役割を持つプレイヤーを追う連載企画『The Facts On Innovation Pipeline』。今回は、このアクセラレーターの動向を2事例にわたって報告したい。
慶應義塾大学医学部による日本初、大学発のコンテスト「健康医療ベンチャー大賞」
2016年12月、慶應大学医学部「知財・産業連携タスクフォース(委員長:慶應義塾大学医学部眼科 坪田一男教授)」が創設した「健康医療ベンチャー大賞」は、日本初、大学発の医療領域のビジネスプランコンテストとして注目されている。2017年2月10日に書類選考で学生部門、社会人部門それぞれ5組を選び、2回にわたって「相談会」というかたちでメンタリングを実施した。
3/19の相談会は大学構内で行なわれ、45分を1タームとし、1チームごとに4回メンターが巡回するプロセスをとっていた。この日参加していたメンターは途中参加も含め14人。短い時間ではあるが、複数のメンターからのフィードバックを集中的に受けられる設計になっていた。初回の2/19の相談会もほぼ同じスケジュールで開催されたとのことで、述べ8人のメンターが各チームと接触したことになる。
「コンテスト以外の部分も強化していきたい」
実行委員の田澤雄基医師(慶應義塾大学医学部卒、MIZEN クリニック豊洲院長)にお話を伺った。田澤医師は予防医学に焦点を当て、働く人が受診しやすい夜の時間帯に診療を行なっている。相談会当日はメンターとしての役割もこなしていた。
田澤医師は、今回のコンテストは初回であり手探りの部分もあるとしながらも「来年以降、タスクフォースとしてはコンテスト以外の部分も強化していきたい」とした。大学自体がベンチャー・キャピタルを設立していることもあり、研究成果を社会に還元するツール整備の一環として、来年以降もタスクフォースによるベンチャーへのサポート拡大が期待できそうだ。
相談会の最後は、決勝進出チームの中間発表とメンターの講評があった。メンターからは「前回はまだプリミティブなものもあったが、今日はかなりビルドアップされてきていた」という言葉もあり、メンタリングの効果が現れているようだ。決勝大会は3/26に開催される。大学発、日本初のビジネスコンテストの初成果がどのようになるか注目される。