理研ら、日本人遺伝性乳がん解析の大規模データベースを構築
理化学研究所らの国際共同研究グループは、2018年10月15日、乳がんの原因とされる11遺伝子について、世界最大規模となる合計 18,000 人以上の DNA を解析したDNAデータベースを構築したと発表した。これまで知られていなかった多くの遺伝子変異を解析過程で発見しており、今後これに基づいた乳がんのゲノム医療の進展が期待される。
「バイオバンク・ジャパン」収蔵の18,000人以上のDNAを解析
乳がんは日本人女性で最も患者数の多いがんであり、そのうち 5~10%の患者はひとつの病的バリアント(個人間での1カ所のゲノム配列の違い)※1が原因になると推定されている。乳がんでは、BRCA1、BRCA2 など 11個の原因遺伝子が知られているが、病的バリアントは人種によって大きく異なるため、日本人独自のデータベース構築が必要だった。今回、国際共同研究グループは 11の原因遺伝子について、バイオバンク・ジャパン※2により収集された日本人の乳がん患者群 7,051 人および対照群11,241 人の DNA を、独自に開発したゲノム解析手法を用いて解析した。その結果、244 個の病的バリアントを同定するとともに、日本人に多い病的バリアント、遺伝子ごとの乳がんのリスク、病的バリアントを持つ人の臨床的特徴などを明らかにしたという。研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』に掲載された。
半分以上が新発見、日本人特有の特徴も
研究で同定した244個の病的バリアントについて、現在遺伝子検査でよく参照される米国国立生物工学情報センター(NCBI)提供のClinVarに登録されているか調べたところ、半分以上が新発見のものだった。また乳がん発症との関係が科学的に明確であるとされる11遺伝子であっても、CDH1、NBN、STK11の3つの遺伝子にある病的バリアントが原因だと考えられる乳がん患者は、日本人にはほとんどいないことも判明した。このことから、日本人に対する遺伝子検査を行う上で、対象とする遺伝子を再評価する必要があることが強く示唆された。研究チームは、本研究で得られた配列データ(fastqファイル)を、バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)に登録。NBDCの許可を得れば、今後の研究に自由に使用できる。
※1 遺伝子バリアント、病的バリアント
ヒトのDNA配列は30億の塩基対からなるが、その配列の個人間の違いを遺伝子バリアントという。そのうち、疾患発症の原因となるものを病的バリアントと呼ぶ。※2 バイオバンク・ジャパン
本人集団27万人を対象とした、世界最大級の疾患バイオバンク。オーダーメイド医療の実現プログラムを通じて実施され、ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報と共に収集し、研究者へ分譲を行っている。2003年から東京大学医科学研究所内に設置されている。