横浜市「医療の視点」とTikTok、乳がんセルフチェック啓発を今月より開始
横浜市医療局「医療の視点」と、先日提携を発表したショートムービープラットフォーム「TikTok(ティックトック)」が共同で記者会見を行い、今月29日から乳がんのセルフチェックを啓発するキャンペーンを行うことを発表した。
この日は横浜市副市長の荒木田百合氏(医療福祉担当)、TikTok運営会社ByteDance執行役員 公共政策本部長の山口琢也氏、TikTokで約37万人のフォロワーを持ち、今回のキャンペーンでキーとなるダンスを踊るサラ・コールディさんが出席。プロジェクトについて語った。
「#胸キュンチェック」PROJECT、その名前に込められた狙い
まず荒木田氏は「一見若い人向けのキャンペーンと思われるのに『胸キュン』とは違和感があると思う」と切り出し、キャンペーンのターゲットと狙いを語った。乳がんは特に40-50歳代の働き盛りの女性に多いがんであり、現在のその世代が若い頃に親しんだ流行語を使うことにしたという。そして、TikTokの主なユーザである10-20歳代の若い世代が、ダンスを通じて乳がんの早期発見の重要性を知り、親にセルフチェックと検診の重要性を伝えるというスキームだと明かした。
「大切な人を乳がんで苦しませないために」
このような企画となった経緯には、荒木田氏と横浜市がこの課題について大きなハードルを感じていることが背景にある。生え抜き職員として初の副市長となった荒木田氏は、職員時代の実感を込めてこう語った。
「横浜市では40歳代以上に、乳がんの検診受診を定期的に(2年に1度)奨めている。だが受診率は4割程度。子育てや仕事で忙しく、先延ばしにしてしまうのだろう。実は横浜市役所の職員でも、乳がんで亡くなる方がかなりいらっしゃる。そんなケースを防ぎたい。お子さんがお母さんの背中を押す、そんな場面が広がってほしい」
セルフチェックの有効性については、医療側から疑問を呈する向きも一部にある。荒木田氏は「あくまで医療を身近に感じてもらいたいという視点であり、乳がんへの関心を啓発したいという目的」「ひと月に一度、しかも手全体でしっかり行う必要もなく、指で踊りに合わせて縦、横と触れることを意識してもらえれば」と語った。
この点に関しては、自らもセルフチェックで病変に気づいたという元SKEの乳がん患者、矢方美紀さんもビデオによる参加でこう語る。「悪いものを見つけるということではなく、まずは自分の標準、からだを知るというふうに考えてもらえれば」。腫瘍を見つけることだけに意味を見出すのではなく、乳がん早期発見のために、定期的に意識することが必要との見方を提示した。
同じくビデオによる参加となった、プロジェクトの監修者である横浜労災病院 包括的乳腺先進医療センター長・乳腺外科部長で乳腺専門医の千島隆司氏は、定期的なチェックの必要性を訴えながら「本人に直接働きかける啓発でなく家族を巻き込んでいくという、非常に新しいチャレンジ」とキャンペーンに対する期待を寄せる。
「短い動画は医療の啓発にも向いている」
今回初めて、自治体との協定締結というかたちで協働するTikTokの山口氏は「弊社は従来から『TikTok for good』の名のもと、各国の社会課題に向き合ってきた。日本でもCPM啓発の一環で「#BPM100」キャンペーンも行なっている。短い秒数(15-60秒)で情報を凝縮して伝えられるのが特徴であり、医療という難しい問題でも向いていると思う」とし、乳がんについては、欧米では罹患率が下がる一方、日本では近年上昇していることを指摘。「私たちもこれを課題だと思っている。日本の課題にコミットするというTikTokの姿勢を見せたい。『人と同じことをしても許されるプラットフォーム』というのはなかなかないので、生かしてもらいたい」とキャンペーンの効果に自信を見せる。
今回、ダンスを通して啓発の重要な担い手となるサラ・コールディさんは「(胸キュンという言葉について)乳がんについての何かという印象はなく、単純に可愛いなという感じ。振り付けは簡単にしたいと同時に、難しい部分も入れたかった」と、これまでTikTok内で話題となったダンス動画の作り手としてのこだわりを見せつつ「私自身も周りも乳がん経験者はいないが、これがきっかけで親子のコミュニケーションが増え、乳がんで苦しむ方が減っていけば」と、意気込みを語った。
「#胸キュンチェック」プロジェクトは、2019年9月29日より、同名のハッシュタグでの動画投稿を呼びかけるキャンペーンとしてスタートする予定。「医療の視点」Webサイトでも特設ページを開設する。