Google Cloudのソリューションだけで正診率99.5%の精巣組織病理診断AIモデル開発 東邦大研究グループ
日本の研究グループが、Google CloudのAI開発ソリューションを医師主導で操作し、精度の高いAI診断モデルの開発に成功したと発表した。医師がAI開発の知識を必要とせずに開発できるようになれば、AIの臨床応用がさらに加速できるだけに注目される事例だ。
Google Cloud™️ Cloud AutoMLを活用
研究成果を発表したのは東邦大学医学部泌尿器科学講座の小林秀行准教授らの研究グループ。開発したのは、男性不妊症の原因を探索するために行われる精巣内組織標本の評価法「Jonsen’s Score」のAIモデルだ。
研究では、2010年1月から2019年12月までに東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターを受診した患者で、閉塞性無精子症または非閉塞性無精子症で精巣内精子採取術を施行した264症例の病理標本を活用。Johnsen score 1~3をラベル1、Johnsen score 4~5をラベル2、Johnsen score 6~7をラベル3、Johnsen score 8~10をラベル4に分け(図1)、ラベル1で2486枚、ラベル2で1614枚、ラベル3で2019枚、ラベル4で1036枚の合計7115枚の病理写真を撮影した(図2)。
撮影した画像は教師用画像データとして、Google Cloud™️のAI開発ソリューションである「AutoML Vision」へアップロード。この画像認識ソリューションは、画面上で『START TRAINING』をクリックすれば自動でトレーニングが開始されるという、簡便なインターフェイスと機能が特徴。トレーニングが完了した時点でモデルの評価指標も自動で作成されるため、どの程度の精査があるかも手間をかけずに確認できる。この段階では平均適合率(AUC)は0.826、正診率が82.6%だったという(図3)。
研究チームでは、この段階で正診率を上げるため、1枚の病理画像の中で、Johnsen scoreを判断する部位の切り抜きを実施。ラベル1で1483枚、ラベル2で3437枚、ラベル3で3523枚、ラベル4で1439枚の合計9882枚の病理写真を切り抜き加工することで精度向上を狙った。作業終了後、同様に「AutoML Vision」へアップロードしトレーニングさせると、正診率が99.5%まで向上したという。
研究グループでは、このAIモデルではすぐに病理専門医に取って代わることはできないが、将来、より簡便で正診率の高い精巣病理AIモデルが確立されることが期待できるとともに、今後はAIの仕組みの基本さえ理解していれば、簡単にAIモデルを作ることができる時代に突入することが期待できるとした。この成果は2021年5月10日に 英国科学誌「Scientific Reports」にて発表された。