遺伝子変異に基づき効果が見込める治療薬を提示するAI、愛知県がんセンターと富士通が開発

 愛知県がんセンターと富士通は、個々人のがんの状況に応じ、効果が期待できる薬剤を絞り込むAIを開発したと発表した。さまざまながん種と遺伝子変異に対応するという。両者は実際に愛知県がんセンター病院の患者を被験者にAIによる薬剤選択の検証を行い、有用性を確認したとしている。

患者450人の治療薬選択を検証、8割で標準療法と同じ薬剤を提示

 患者一人ひとりに、がんの遺伝子変異に応じた最適な治療を行う「がんゲノム医療」については、国立がん研究センターが中心となった取り組みが保険適用されるなど普及が推し進められている。しかし専門医は不足しており、育成プログラムの強化とともに、専門医に相当するレベルで診療を支援するAIなどの技術開発が求められている。この課題を対応する取り組みとして、愛知県がんセンターと富士通は2019年11月より、AI技術を活用したがんゲノム医療の加速に向け包括的な共同研究契約を締結。臨床現場で活用できる技術やシステムの研究開発を進めてきた。

 その成果となるこのシステムの特徴は、外部の複数データベース内で様々な表現やルールによって管理されたがん種や遺伝子変異に対応した薬剤の情報と、その治療効果を評価する実験データなどを共通の表現やデータ形式に整理でき、さらにデータ属性に基づきデータ同士にリンクを自動付与、ナレッジグラフとして表現できるところだという。これにより様々な治療薬の中から、患者ごとに異なるがん種や多様な遺伝子変異に対して効果が期待できる薬剤の絞り込みが可能となったとしている。

 両者はこのシステムの効果検証として、愛知県がんセンターのエキスパートパネルで治療法などを検討されてきた約450人の患者を対象に、治療に効果的な薬剤の評価を実施。その結果、8種の遺伝子変異に対し標準的な治療薬を提示できること、さらにそのほかに、様々な治療薬の中から薬効の度合いを示す客観的なスコアや類縁のがん細胞の性質などから治療効果が期待できる薬剤候補を導き出せることも確認した。両者はこのシステムで得られる結果により、高度なゲノム医療の知識を持つ専門医でなくとも、治療薬選択や新たな治療法の提案がでる環境が広く普及することが期待できるとしている。今後は富士通の文献情報抽出AI技術を組み合わせ、120万件を超える過去の大量の医学文献を瞬時に参照できるようにするなど、機能強化を進めるという。