統合失調症か発達障害かを画像解析で鑑別できるAIを開発、判別率最高で70% 東京大学と浜松医大

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東京大学、浜松医科大学の研究グループは、慢性期統合失調症と発達障害の患者の磁気共鳴画像(MRI)データを用いて機械学習を行い、それぞれの疾患を鑑別できるAIを開発したと発表した。判別率は最高70%で、今後多施設共同研究等で臨床応用に向けた研究を加速させる。

「どちらの疾患か」を鑑別するAIは世界初

成果を発表したのは、東京大学大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センターの小池進介准教授、東京大学医学部附属病院精神神経科・笠井清登教授、浜松医科大学医学部精神医学講座・山末英典教授らの研究グループ。精神疾患の診断は現在も精神科医による問診が主な判断基準となっており、血液や画像などを用いた客観的な診断補助が求められている。その意味において機械学習(AI)による判別支援が期待され、各機関の研究が進んでいるが、おおむね疾患群と健常群を分ける研究がほとんどで、疾患群同士の分類を行う研究はあまり行われていなかった。特に、診断を確定することが難しいとされる「発症リスク」や「発症初期」の判別に関する研究も進んでいない。

こうした課題に対して、研究グループではMRIの脳構造データを用い、慢性期統合失調症、発達障害、健常(対照群)の3つを判別するAIを開発したうえで、AIの開発には使用していない統合失調症臨床病期(精神病ハイリスク、初回エピソード精神病)のMRI画像を当てはめ、このAIが疾患カテゴリーを判別できるかを検討した。

発達障害ではなく統合失調症と判別する率、最高70%

具体的には、慢性期統合失調症64名、発達障害36名、健常対照106名の研究参加者から計測された脳構造画像を、解析ソフトウェア「FreeSurfer」を用い各部位の皮質厚(150変数)、皮質面積(150変数)、皮質下体積(36変数)、計336変数を求めた。PythonのSkLearnライブラリにある6つの機械学習手法を用い、どの脳構造特徴とAIの組み合わせが、最も判別率が良くなるかを検討した。評価基準については判別率のほか、各疾患群の症状重症度も採用した。

また、独立サンプルとして、精神病ハイリスク26名(数年間で統合失調症発症リスクが20%程度あるといわれている群)、初回エピソード精神病17名(精神病症状[幻覚、妄想など]を発症してまもない群)の研究参加者から計測された脳構造画像を同様の方法で脳構造特徴変数を求め、作成したAIにあてはめ検討した。

その結果、特にサポートベクターマシーン(SVM)※1とロジスティック回帰(LR)※2の学習手法が、疾患判別にはより有効であることが分かった。さらに、独立サンプルとして精神病ハイリスク、初回エピソード精神病の脳画像データを当てはめると、57.6%の精神病ハイリスクデータ、70%の初回エピソード精神病データが統合失調症と判定され、残りは健常対照と判定された。発達障害と誤判定するケースはなかった。

研究グループはこの研究成果について、これまでの精神疾患脳画像を用いた機械学習は、主に疾患群と健常群を分けるものであったが、臨床現場では、ほぼすべての対象者が研究上は疾患群に入っているためその臨床応用は限られたものだったとし、鑑別診断、つまり疾患Aと疾患Bどちらかを判定する機械学習技術は臨床現場で必要とされるものであり、鑑別診断や治療予測などのマーカーとしての応用が期待されると評価している。今後研究チームは臨床応用に向け、多施設研究などでさらなる検証を行う考えだ。

※1 サポートベクターマシン(SVM)
教示あり機械学習手法のひとつで、与えられた変数を最大限用いて、異なる群を最も分離できるように超平面を作成する。

※2 ロジスティック回帰(LR)
教示あり機械学習手法のひとつで、ロジスティック曲線を用いて、異なる群を最も分離できる変数と重み付け係数を求める。

 

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Posted by Shigeru Kawada