帝京大ら、唾液解析で乳がんを検出するAIを開発 学習でAUC0.919の高精度達成

 

帝京大学、東京医科大学、慶應義塾大学の共同研究チームは、唾液のメタボローム解析と人工知能(AI)を活用し、高精度に乳がん患者を検出する方法を開発したと発表した。AIで学習することでより高精度に検知することが可能になったという。

166の唾液検体を収集し、メタボローム解析

今回成果を発表したのは、帝京大学医学部外科学講座の神野浩光教授、東京医科大学低侵襲医療開発総合センター教授 で慶應義塾大学先端生命科学研究所の杉本昌弘特任教授、慶應義塾大学医学部外科学(一般・ 消化器)の林田哲専任講師らの共同研究チーム。生体内の代謝物を一斉に測定して定量するメタボローム解析技術※1を利用し、唾液を用いた疾患検出の可能性を研究してきた。今回、浸潤性乳がん(invasive carcinoma, IC 群)101 症例、非浸潤性乳がん(ductal carcinoma in situ, DCIS 群)23 症例、健常者(healthy control, HC 群)42 症例の合計166の唾液検体を収集、メタボローム解析を実施した。 

検査の概要(プレスリリースより)
論文より

結果、唾液中から260種類もの物質が定量でき、そのうちの約30物質は各群の間で濃度に違いがあることが統計的な評価によって明らかなった。またIC群において、代謝物の一種であるポリアミン類※2などの濃度がHC群と比較して高い一方、DCIS群ではこれらの物質の濃度の上昇はみられず、HC群と濃度が変動しないことも分かった。さらにこのうちIC群とHC群の間をもっとも高精度に識別する物質は、ROC曲線※3以下の面積(AUC)において0.766(95%信頼区間;0.671–0.840)という精度を出したが、これらの物質群の濃度パターンを人工知能※4に学習させたところ、0.919(95%CI信頼区間;0.838–0.961)にまで精度を向上させることに成功したという(論文Fig.4)。

研究チームでは、唾液の解析のみでこれほど高精度に乳健常者から乳がんを識別でき、新しい検査法として極めて有望だとしており、今後より大規模な症例での検証、他疾患との比較なども含めさらなる精度向上、より低コストな測定方法の開発を進めていきたいとしている。

なおこの研究成果は Breast Cancer Research and Treatment誌に2019年7月9日付で掲載されている。

※1 メタボローム解析:代謝物と呼ばれる小さな分子を一斉に測定する技術。
※2 ポリアミン類:スペルミン、スペルミジンなどの一連の物質。細胞増殖等にかかわる。 
※3 ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線:受信者動作特性曲線といい、感度と特異度を 評価する。この曲線以下の面積(AUC=Area Under the Curveと呼び、最小 0 で最大が 1)が大きい値であるほど、感度も特異度も高いより正確な精度であることを示す。 
※4 人工知能:パターン認識などで様々なアルゴリズムのうち、今回はalternative decision tree (Adtree)という決定木を改良した高精度な方法を用いたとのこと。