AIで認知症の個人レベルの発症リスクを初めて予測可能に 島根大学と追手門学院大学
島根大学と追手門学院大学は、脳MRI画像2100例あまりをAIで解析させた結果、高齢者がいつどの程度の確率でアルツハイマー病を発症するのか予測可能になったと発表した。個人の発症確率を経過年数ごとに予測する手法を確立したのは画期的だとしている。
島根大学所有の脳MRI画像2142例を解析 推定精度は83.5%
今回の成果を発表したのは、追手門学院大学の小野田慶一教授※1と島根大学医学部神経内科の長井篤教授および株式会社ERISA(島根県松江市)の共同研究チーム。島根大学が所有する健康な人とアルツハイマー病患者の脳のMRI画像計2142例とその後の発症状況を追跡したデータを、深層学習による解析行った結果、経年での発症確率を予測することに成功したという。
解析にあたっては、脳MRI画像から領域ごとの灰白質容積を算出してこれを特徴量とし、機械学習の手法である「深層生存分析」を採用。経過年ごとの発症確率を推定できるか解析した。従来のクラス分類にもとづく手法では、2年以内に発症するかどうかといった2分法による推定しか行えないが、この手法を用いれば年ごとに個人レベルの発症リスクを推定することが可能だ。結果、予測精度を見る指標として一般的なConcordance indexにおいて、最大値で0.835を達成した。
「顕著性ネットワーク」も発症リスク予測に関わりがあることを示唆
また、研究チームではどの脳領域がアルツハイマー病発症予測に重要かを調べたところ、従来からアルツハイマー病との関連が示唆される「デフォルト・モード・ネットワーク」※2だけでなく、前帯状回や島皮質といった「顕著性ネットワーク」※3も重要な情報源であることが示されたという。研究リーラーの小野田教授は、「個人レベルでアルツハイマー病の発症リスクを将来の経過年数ごとに評価できるようになった。今後は研究成果の医療等への応用も考えられる」と述べた。この研究成果を示した論文は、神経学の専門学術誌BrainCommunicationsに5月27日付で掲載されている。
※1 小野田教授は2020年3月まで島根大学に所属
※2 デフォルト・モード・ネットワーク:話をする、食事を作るなどの意識的な行動のとき以外でも活動している脳領域のこと、またはその活動のこと。複数の脳の領域で構成される最も大きな脳内ネットワークのひとつだと考えられており、アルツハイマー病を発症した脳では活動が弱まり、また原因物質のひとつと推定されているアミロイドベータが蓄積されることも分かっている。
※3 顕著性ネットワーク:Salience Network(サリエンス・ネットワーク)とも呼ばれており、上記の「話をする」「食事を作る」といった意識的行動を司るといわれる「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(Central Executive Network、中央実行ネットワーク)」とデフォルト・モード・ネットワークの間をとりもつと言われている。脳科学のこれまでの研究では、この3つのネットワークは同時に活動することはなく、脳内で切り替わりながら人間の意識や活動を司っているものと考えられている。