胚培養士の精子評価をクラウドへ取り込んだ「精子評価AI」を構築 横浜市大と横浜国大

 横浜市大と横浜国大の研究グループは、生殖医療における重要なプロセスである「精子評価」を行う胚培養士の知見をクラウドへ登録し、ディープラーニングで精度の高いAI(人工知能)の構築に成功したと発表した。不妊治療における受精率の向上などに大きく貢献できるとしている。

胚培養士による5,000以上の「精子評価」データをAIに

 今回の研究成果を発表したのは、横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センターの湯村 寧准教授らと、横浜国立大学工学研究院の濱上知樹教授らの研究グループ。男性不妊の中でも、精子数の少ない患者に主に行われる治療として顕微受精 (Intracytoplasmic sperm injection: ICSI) があるが、この手技には限られた時間の中で有望な精子を見つけ出す高い細胞識別能力が要求されるため、この専門的な技術を有する胚培養士の負担は極めて高いという。

 研究グループはこの治療の成功率向上、胚培養士への作業負担軽減などを目的に、胚培養士が行う精子評価作業をAIを活用して支援するシステムを開発した。国内各診療所の胚培養士に協力を仰ぎ、クラウド上に構築したポータルサイトを介して、彼らが採取し、5段階のグレードで評価したデータ(2021.5時点で5,177個)を収集。これをもとにディープラーニングによって特徴抽出を行い、そこから多くの胚培養士の集合知である分布を推定した。分布精度の平均二乗誤差(MSE)は、学習学習データに対し0.00035(平均絶対値誤差MAE 1.43%)、検証データに対して 0.025(同 11.08%) となり、高い精度で分布推定ができることを確認したという。

 研究グループでは、このシステムが実用化されれば、生殖補助医療分野、特に精子の選別・探索、男性不妊症検査が高度化でき、不妊治療における受精率の向上と患者の費用負担、胚培養士の負担双方の軽減、さらには熟練した胚培養士の技術伝承に大きく貢献できるとしている。なお、この研究成果は第18回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会、第36回平成不妊研究会(いずれも2021年6月開催予定)および第66回日本生殖医学会(2021年11月)、第 109 回日本泌尿器科学会(2021年12月)において発表予定。