産総研ら、3Dプリンティングによる人工歯製造を実用化 材料は初の薬事承認獲得

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2018年7月19日、国立研究開発法人 産業技術総合研究所は、アイディエスと共同で、3Dプリンティング用コバルトクロム合金粉末の薬事承認を取得し、患者に最適な人工歯を用いた歯科治療を可能にしたと発表した。破損やアレルギーのリスクが少なく、立体構造の人工歯が短時間で作成できるとしている。

「医療機器開発ガイドライン」による開発、実用化

現在主流である人工歯(いわゆる入れ歯、詰め物)の課題として、場合によっては材料を複数使い構造も複雑になることから、耐久性の問題やアレルギー発生リスクが挙げられている。これらを解決するためには、アレルギーリスクの少ない単一材料での一体製造が求められるが、現在認可されている製造法である鋳造法とは違う製造方法をとれば、新技術となるため新たに医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査、認可が必要となり、さらにその製造法に使用する材料についても医療機器としての承認が必要となる。もともと日本では整形インプラントなどの治療機器分野の輸入依存度が約90%と高く、さらにこのような障壁が、日本企業のこの分野に対する新規参入を阻んできた。

この状況を打破するため、産総研が事務局となり、厚生労働省、経済産業省、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の合同事業である医療機器開発ガイドライン策定事業により、2017年に「三次元積層造形技術を用いた歯科補綴装置の開発ガイドライン (手引き)」が作成、公開された。今回の取り組みは、そのガイドラインに基づいて、産総研が日本の歯科材料製造販売業者であるアイディエスと組んで実現した初の実用化案件となる。

現在も使われるコバルトクロム合金の粉末で薬事承認獲得

まず製造法については積層造形法(いわゆる3Dプリンティング)による製造で、従来製法では必要であった各パーツの溶接等の必要性のない、強度と耐久性に優れた立体構造の確立を目指した。材料については、従来製法でも使われるコバルトクロム合金の粉末を採用。医療用材料として薬事製造販売承認が必要となるため、こちらに関してはアイディエスが担当し、産総研は積層造形材のミクロ組織や耐久性などの力学的安全性評価を行った。協力して進めることで、医療機器製造販売承認申請から厚生労働大臣承認までが1年未満の短期間で承認を得ることができたという。

3Dプリンティング技術を採用することによって、従来製法で必須となっていた工程の多くを省くことができ、コストも削減、さらにその工程で必要であったワックスなどの消耗品も必要なくなる。かつ、コバルトクロムを粉末にすることによって繰り返し再利用できるなど、材料の無駄が少なく環境にもやさしい。また、3Dプリンタを用いれば、夜間に造形させ次の日に仕上げ加工することもでき、製造期間を1/3以下にまで短縮できるという。

産総研では、今回の取り組みはIoT技術と連携すれば遠隔地域でも利用できるようになると期待できるとしている。今後は、積層造形技術の保険適用、コバルトクロム合金の国産粉末での認可、さらに、敏感なアレルギー患者への配慮のため、チタン材料での人工歯の開発を目指す。

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