国立がん研究センター東病院、一般社団法人CirKit-Jは、大腸がんの術後再発抑止の可能性を高める薬物療法の国際共同治験(第III相)を開始したと発表した。この治験を運用する資金は、治験実施とその後の実用化を見据え設立した、特別目的会社「アルファーA」を通して製薬会社以外の企業から資金調達を行なっており、新しい治療法確立のためのこれまでにないスキームとしても注目される。 リキッドバイオプシーで術後の残存病変を検知、薬物療法へ 今回開始された治験は、外科治療が行われた大腸がん患者に対し、リキッドバイオプシーによるがん個別化医療の実現を目指すプロジェクト「CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)」の傘下で行われる3つ目の臨床試験となる。国内外37施設(うち海外1施設)で実施される、消化器がんの医師主導治験では過去に類を見ない大規模なものだという。 この治験で用いる検査技術は「CIRCULATE-Japan」で開発したもので、米国Natera社が開発した超高感度遺伝子解析技術「Signatera」アッセイを使用する。腫瘍の遺伝子異常をもとに、約16の遺伝子を標的として患者ごとにオリジナルの検査試薬を作製。これを用い、血中に浮遊するがん腫瘍由来のDNA(ctDNA)が含まれているかを次世代シークエンサー法により解析する。血液検査で繰り返し測定可能であるため身体に負担が少なく、がんの再発をより早期に発見できることが期待される。その後、ctDNAが検知された患者を対象に薬物療法(経口の新規ヌクレオシド系抗悪性腫瘍薬FTD/TPI療法※)の有用性を検証する。大腸がんの術後微小残存病変をターゲットとした治験実施は世界初となる。 近年の「CIRCULATE-Japan」を始めとするリキッドバイオプシー技術の進展で、術後ctDNA陽性となった大腸がん患者は80-100%の確率で再発することが分かってきており、この段階でより強度の高い薬物療法を確立することで治癒率が向上することが期待されている。この治験はその実現に向けた取り組みの先鞭となる見込みだ。 またこの治験は、製薬企業以外の民間企業からの投資資金を活用する新たな医師主導治験の枠組みを構築していることでも注目される。一般社団法人CirKit-Jはこの枠組みのために今年4月に設立された法人で、療法ごとに特別目的会社を設立し、その法人を通して製薬企業以外の民間企業からの出資を募る。今回の治験実施の向け「アルファーA」を設立、ソフトバンクが応じて出資していることも発表されている。CirKit-Jでは、今後同様の特別目的会社を順次設立していく方針だ。 ※ FTD/TPI療法 DNAに取り込まれることで抗腫瘍効果を発揮するFTDと、体内でFTDの分解を阻害するTPIを配合した、新規作用機序を有する経口のヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤。治療歴を有する切除不能大腸がんと胃がん患者さんを対象に、欧米・アジアをはじめ世界で広く承認されている。