AIでうつ病の「脳回路マーカー」を開発、判定精度70% 保険適用視野に臨床応用へ

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 施設によってデータの差が顕著だったfMRI(機能的磁気共鳴画像)の差をAIによって埋め、どの施設でも活用可能な世界初のうつ病の「脳回路マーカー」が開発された。臨床応用を進め、2022年度にはプログラム医療機器としての承認、保険適用を目指すという。

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各施設のfMRIデータを統合してビッグデータ化、機械学習でAI開発

図1:本研究で使用したデータセットの概要。発見用データセットは国内4施設(広島大COI・京都大・東京大・昭和大)の研究参加者713人(健常者564人、うつ病患者149人)のデータセット。検証用データセットは国内4施設(梶川病院・広島市総合リハビリテーションセンター・広島大病院・山口大学)及び一般公開されている国外施設(OpenNeuro 別ウィンドウで開きます)の研究参加者521人(健常者285人、うつ病患者236人)のデータセット。
図2:領域間機能的結合の計算及び脳回路マーカーの概要。脳活動を反映するBOLD信号の時間的変動の相関係数から評価を行う。相関係数は、2領域間の脳活動の類似性が高い(=同時に活動が高くなったり低くなったりする)と1に近い値に、互いを抑制しあう関係では(一方の活動性が高いとき、他方の活動性が低いなど)-1に近い値に、互いに関連しないとき0に近い値を取る。機能的結合のひとつひとつについて、その強度(相関係数に関連)に重み(係数)を掛け合わせたものを全て足し合わせ、ロジスティック関数に入力して得られた値をうつ病度と呼びます。

 開発したのは山下歩研究員らATR脳情報通信総合研究所、広島大学、東京大学、昭和大学、京都大学、山口大学、理化学研究所の研究グループ。fMRI(機能的磁気共鳴画像)はその安全性や情報量の多さから実用化の期待は高いが、計測した施設によってデータの性質が異なるという実用上極めて大きな課題があり、これまで精神医学の臨床現場での診断にほとんど利用されていない。研究グループは以前の研究で、複数の施設から集められた脳画像データから測定方法の違いによる施設間差のみを除去する「ハーモナイゼーション法」を開発しており、今回この手法を活用し、異なる複数施設で取得したfMRIデータを、施設間差を除去した均質な大規模データ(総数1,584例)として統合。次に、この大規模データに機械学習を適用して、個人の脳回路に基づき健常者と大うつ病患者を判別する、大うつ病の脳回路マーカーを開発した。この脳回路マーカーは、異なる施設で撮像された完全独立データについても健常者と患者を約70%の確率で判別でき、施設に関係なく有効であることを以下のように確認している。

図3:個人の脳の領域間機能的結合から計算される「うつ病度」により、健常者と大うつ病患者の診断が可能。本研究で開発されたうつ病脳回路マーカーを発見用データセット、検証用データセットに適用した結果。本研究で特定されたうつ病診断に重要な機能的結合の脳内での分布。脳領域の色はその領域の大まかな機能を、線の太さは機能的結合の強さ、線の色は正の相関(赤色)と負の相関(青色)を表す。

産学連携で民間企業がプログラム医療機器として実用化へ

 研究グループは今回開発した手法の臨床応用を目指している。具体的な活用フローとしては、MRI撮像に加え10分間程度のfMRI撮像を行い、このデータをもとに、医師が院内の専用端末から院外の「うつ病脳回路マーカー」を搭載した解析処理サーバに脳画像を送付。自動解析が行われ、結果は端末側プログラムに表示されるというものだ。医師は返された結果を参考情報として臨床的判断を行い、治療を開始することができる。

 実用化に向け規制官庁のPMDA(医薬品医療機器総合機構)と相談を行い開発プロセスを担うのは、ATRからスピンアウトしたAIベンチャーXNef社。これまでにも独自のニューロフィードバック理論に基づく疼痛管理の新しい治療法の可能性を提示した研究を発表している(既報)。現在までに医療機器開発前相談を含め7回にわたり相談済みで開発方針に関してコンセンサスを得ており、2021年度に承認申請を行い2022年度中の承認取得を目指している。最終的には保険適用を視野に入れているという。なおこの成果は論文として、学術誌「PLOS Biology」に米国東部時間2020年12月7日付で掲載されている。

外部リンク(論文):Generalizable brain network markers of major depressive disorder across multiple imaging sites(PLOS Biology)

 

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Posted by Shigeru Kawada