【石北直之コラム】3Dプリント可能な人工呼吸器開発実用化プロジェクトについて

編集部より:
昨年、当メディアも取り上げ大きな話題となった「COVIDVENTILATOR PROJECT」。3Dプリンターで出力できる人工呼吸器を普及させようという、国立病院機構新潟病院 石北医師を中心とするチャレンジはまだ続いている。今回ご本人からプロジェクトの現状報告と、新たな異分野融合の取り組みについてご寄稿いただいた。

プロジェクトの現状について

 2020年、新型コロナウイルスパンデミックにおける肺炎治療のため、人工呼吸器の世界的な需要増と供給不足が深刻な問題となりました。そこで注目されたのが、3Dプリンターでした。3Dプリンターとインターネット環境、設計図データさえあれば、どこでも人工呼吸器の製造が可能になると期待され、世界中で様々な3Dプリント人工呼吸器プロジェクトが立ち上がったものの、電子部品の調達、組み立てやプログラミングが別に必要なこと、さらに安全性や耐久性にも大きな課題がありました。

 一方で、私たちは3Dプリントで製造可能な人工呼吸器の開発に2013年から取り組んでおり、2017年には、国際宇宙ステーションへ設計図データを転送し、宇宙で人工呼吸器を製造、動作させる世界初の実験に成功しています。この人工呼吸器は「ハンドル、ボディ、バネ、バルブ」の4つの部品のみで構成されており、呼気の通り道と 弁のサイズに大きな比を設けたことで空気の力だけで人工呼吸の動作を実現出来ます。

 私たちが長年取り組んできた研究によって、今回の問題を解決出来るのではと、フランスの医師から相談を受けたことをきっかけに、実用化のために有志と立ち上げたのが「3Dプリント可能な人工呼吸器開発実用化プロジェクト (COVIDVENTILATOR PROJECT)」でした。

 データを公開すれば後は勝手に広まると簡単に考えていましたが、実際はそうではありませんでした。

 3Dプリンターは誕生から40年以上が経過し多種多様な機種が出回ってますが、どの機種が十分な品質の出力が可能か全く分かっていませんでした。

 そこで SNSを通じ3Dプリントボランティアを募ることから始めました。メディアの紹介をきっかけに瞬く間にプロジェクトの噂が広まり、10日間で100件以上のサンプルが集まりました。サンプルを全て解析したところ、そのほとんどは高品質で一般ユーザーでも人工呼吸器を製造可能なことがわかりました。

 ただ、低品質な造形物や改造品の混入が重大な医療事故を起こすリスクとなるため、厳格な品質管理の規程が必要です。

 さらに、人工呼吸器は、クラスⅢの高度管理医療機器に該当し、各国における薬事承認が必要とされます。ただ、これまでの歴史上、医療機器として認可された3Dプリント製人工呼吸器は無いため、審査の方法そのものが存在しませんでした。そのため、私たちはまず同等の機能を有する金型製造モデルを開発し、薬事承認を済ませ、その臨床試験の方法と結果を基に3Dプリントモデルの薬事承認を目指す事としました。

 研究開発、薬事承認等の申請手続きには多額の費用を必要としますが、新潟病院からの支援の呼びかけに対し、現在までに1000万円近い寄付が寄せられました。さらに、経済産業省・AMEDの令和2年度「ウイルス等感染症対策技術の開発事業」に採択していただき、人工呼吸器2種と、その付属品2種の4製品が完成し、2021年6月には、金型製造モデルが単回使用ガス式肺蘇生器として国内薬事承認を得ました。3Dプリント人工呼吸器の方は、残念ながら薬事承認にもう少し時間がかかります。 というのも 、これから以下6つのステップをひとつずつクリアしなければならないからです。

 1つめは、 金型成型モデル「MicroVent®V3」の海外薬事承認および保険償還申請手続きを完了させる事​。2つめは、 3Dプリントモデル「?VENT®︎」の国内薬事承認を得る事​。3つめは、「?VENT®︎」の海外薬事承認および保険償還申請手続きを完了させる事。4つめは、 認可されたメーカーが使用する3Dプリンターと同じ機種を他の場所で使用する許可を得る事​。5つめは、他社製の3Dプリンターでも同等の精度で 「?VENT®︎」を製造可能であることを​証明し、その使用許可を得る事。ここまでして、やっと海外展開が可能になります​。

 現在 3Dプリントモデル「?VENT®︎」の臨床研究の真っ最中ですが、本プロジェクトをここまで順調に進められたのは、皆さまのご支援とご協力のお陰です。全世界の医療現場では、今もなお、新型コロナウイルスという見えない敵と懸命に戦っています。私たちはこれからも助けあい、支えあってこの難局を必ず乗り越え、喜びを分かち合いましょう。

本研究における成果品 A:金型製造モデル(MicroVentⓇ V3)、B:(1) 3Dプリントモデル(?VENTⓇ)と外付け医療機器となる (2) マノメータ 及び (3) 人工鼻フィルター、(QRコード) YouTubeチャンネル【公開試験】 ?VENT® & MicroVent® V3|3Dプリント可能な人工呼吸器モデル長時間耐久試験

YouTubeチャンネル #024U 【公開試験】
?VENT® & MicroVent®V3|3Dプリント可能な人工呼吸器モデル長時間耐久試験
https://www.youtube.com/channel/UCkAfUnmFBB7yxE_BAFN2rtA

「COVIDVENTILATOR PROJECT」3Dプリントボランティアの皆様へ

KYOTO STEAM 2022国際アートコンペティション アーティストと企業・研究機関が、対話を重ね制作した作品を展覧し、表彰
KYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティション - KYOTO STEAM ―世界文化交流祭―

 宇宙プロジェクトとして2013年から続けてきた3Dプリント人工呼吸器の研究は、皆様の造形サンプル報告やアドバイスのお陰で、より安全で使い易いデザインへアップデートされ、世界に類のない3Dプリント出来る人工呼吸器を完成させることが出来ました。造形して頂いたサンプルは『モックアップ』で、品質検証の目的以外に使い道がありませんでしたが、本プロジェクトの成果は皆様の協力の賜物であることから、造形サンプルを集めて何らかの形にし、喜びを分かち合いたいという強い想いがありました。

 この想いが通じ、COVIDVENTILATOR PROJECTは、2022年1月29日~2月13日まで京都市京セラ美術館で開催されるKYOTO STEAM2022 国際アートコンペティションに選出され、若手アーティスト三木麻耶さんとのコラボレーションにより、皆様の作品がアートとして展示される事になりました。

 そこで、3Dプリントボランティアの皆様からの造形サンプルを出来る限り漏れなく集めたいので、皆さんの力をお貸しください。貴重な研究資料ですので、アート展が終わった後は研究室に大切に保管させて頂きます。

 造形サンプルの提供方法は、郵送または会場に持参していただく方法の2種類です。取り違いを防ぐために、事前に造形サンプル提出用キットをお送りいたしますので、以下の申し込みフォームから手続きをお願い致します。(会場へ造形サンプルを持参される方には、招待券を2枚同封してお送り致します。

#024U #kyotosteam #covidventilator

造形サンプル提供用キット申し込みフォーム

造形サンプルデータダウンロードURL (限定公開中)

 

寄稿:石北 直之(いしきた・なおゆき)氏

医師・医学博士

国立病院機構新潟病院臨床研究部医療機器イノベーション室長・内科医長併任
国立病院機構新潟病院医療機器イノベーション研究室長・内科医長