マウス脳の全細胞を解析するクラウドシステム「CUBIC-Cloud」、Webで一般公開

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 理化学研究所と東京大学の共同研究グループは、マウスの全脳全細胞解析を可能にするプラットフォームであるクラウドシステム「CUBIC-Cloud」を開発し、インターネット上に公開した。解析をクラウド上で行うため、計算環境を持っていない研究者も利用でき、解析結果はクラウドを通じ世界の研究者に共有・公開することができるという。ホームページではユーザー登録を受け付けている。

解析もクラウド上で行い、結果を共有可能

 開発・公開したのは理化学研究所 生命機能科学研究センター合成生物学研究チームの真野智之研修生(研究当時)、山田陸裕上級研究員、上田泰己チームリーダー、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室の史蕭逸助教らの共同研究グループ。神経科学の研究において、マウス全脳の高解像な画像を取得することが一般化してきたが、しかし、大量の画像データを効率的に解析し、さらに他の研究者と共有するためのソフトウェアについてはボトルネックとなっているという。

図1 CUBIC-Cloudの概要図 CUBIC-Cloudによる全脳解析パイプラインの概要。マウス脳を透明化処理後、光シート顕微鏡で撮像し、取得した画像から細胞の点を一つ一つ検出した。ユーザーは点検出した画像をCUBIC-Cloudにアップロードする。クラウド上で、脳と脳の位置合わせを行い、さまざまな解析をすることが可能である。インタラクティブな3D全脳ビューアも提供している

 研究グループでは2014年に今回開発したシステムの前身となる全脳全細胞解析技術「CUBIC」を開発しており、それをベースにクラウド上で解析を行い、結果を共有できるようにした。まずユーザー側では、CUBIC技術で透明化処理したマウス脳を光シート顕微鏡で撮影し、画像解析ソフトで細胞検出までを行う。このデータをCUBIC-Cloudにアップロードすると、ブラウザ上で複数の脳の位置合わせ(レジストレーション)、定量解析、可視化までできるという(図1)。

図2 CUBIC-Cloudを用いた解析の実施例 マウス全脳の4種の神経細胞(ソマトスタチンニューロン、ドーパミンニューロン、パルブアルブミン陽性(PV)ニューロン、アセチルコリンニューロン)およびグリア細胞を抗体染色で可視化し、CUBIC-Cloud上で一つの脳の上に合成したもの(左上)。これによって、さまざまな脳画像の比較が可能となる。左上は5種類の細胞の合成画像である

 研究グループでは公開にあたって「CUBIC-Cloud」の性能を実証するため、60個体以上のマウスの全脳を解析した(図2)。その結果、さまざまな種類の神経細胞(ニューロン)が脳のどこにあるのか、認知症モデルマウスにおけるアミロイドβプラーク沈着の定量解析、実験的に脳内炎症を起こした際の脳神経細胞の活動の変化などを捉えることに成功している。このクラウドシステムが神経科学を推進する基盤技術として活用され、神経科学の発展に大きく貢献するものと期待するとしている。なお研究成果は論文として、2021年6月21日付で科学雑誌『Cell Reports Methods』に掲載された。

外部リンク:CUBIC-Cloud ホームページ
外部リンク(論文):CUBIC-Cloud provides an integrative computational framework toward community-driven whole-mouse-brain mapping(Cell Reports Methods)

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Posted by Shigeru Kawada