「ギャンブル障害判別AI」開発に成功、判別能はAUC0.81 医科歯科大ら

 東京医科歯科大学らの研究グループが、MRI画像を解析し生物学的にギャンブル障害かどうかを判別するAIを開発したと発表した。異なる撮像方式の複数機種のMRI画像でも良好な結果を得ており、実用化も見込めるとしている。

複数機器のMRI画像にも対応

 研究成果を発表したのは、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野の高橋英彦教授、京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)の村井俊哉教授、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・脳情報通信総合研究所の川人光男所長、量子科学技術研究開発機構(QST) ・量子生命科学研究所の八幡憲明チームリーダーの研究グループ。ギャンブル障害の診断は、主に主観的な症状やギャンブルに関連する行動を基に行われるが、ギャンブル障害患者は主観的な症状やギャンブルに関連する行動を認めなかったり隠したりする傾向があるため、適切な診断が困難なケースが多いのが実状だという。
 近年、MRIによる脳画像データを用いて精神疾患の特徴を理解しようとする研究が行われるようになり、なかでも安静時脳機能画像※1(rsfMRI)における安静時脳機能結合※2を患者と健常者において比較することで精神疾患の神経基盤を探索する研究が盛んだが、研究チームでは、人工知能技術を用い安静時脳機能結合の情報からギャンブル障害のバイオマーカーとなる指標を抽出し、ギャンブル障害の診断を予測する判別器の開発を試みた。

 今回、研究チームは2台のMRI装置を用いて(装置1,2)、人工知能の訓練データとして合計161名(ギャンブル障害患者70名、健常対照群91名)の研究対象者からrsfMRIを収集し、各研究対象者の安静時脳機能結合を計算した(9,730本)。この情報に、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・脳情報通信総合研究所で開発された人工知能技術※3を適用した結果、ギャンブル障害の診断に関わる15本の脳機能結合とそれぞれの結合の重み付けの情報から診断のためのバイオマーカーとなる数値的指標が算出され、ギャンブル障害の診断予測が可能なAIが作成できたという。このAIの判別能力を検証するため、訓練データの161名とは異なる20名(ギャンブル障害患者6名、健常対照群14名)の研究対象者のrsfMRIを訓練データとは別のMRI装置(装置3)を用いて収集し、安静時脳機能結合の情報に判別器を適用したところ、AUC※4は0.81だった。

 研究グループでは、訓練データの収集に用いた2台のMRI装置と独立した外部データの収集に用いたMRI装置は3台とも機種・撮像方法が異なっており、今回開発したAIは、今後幅広い施設において使用可能だとしている。

※1 安静時脳機能画像
複雑な課題や刺激を用いず、安静状態で機能的 MRI を測定する手法。この検査において、研究対象者は開眼または閉眼で安静にし深く物事を考えこまないことだけが求められ、測定時間も約10分程度と短く、身体的負担が少ない。

※2 安静時脳機能結合
安静状態にあっても脳は多くのエネルギーを使って自発的な活動を行っている。脳機能結合とは、空間的に隔たっている脳領域どうしの活動パターンの同期関係(類似度)を表すもの。脳活動を反映するMRI 信号(BOLD 信号)の時間的変動の相関係数から評価を行う。相関係数は、二領域間の脳活動の同方向の関係(=一方の活動が高い時にもう一方の活動も高く、一方の活動が低い時にもう一方も低い)であると1に近い値に、逆方向の関係(一方の活動が高いときにもう一方の活動が低く、一方の活動が低い時にもう一方の活動が高い)であると-1 に近い値に、互いに関連しないとき0に近い値を取る。

※3 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・脳情報通信総合研究所で開発された人工知能技術
L1 正則化スパース正準相関分析法(L1-regularized sparse canonical correlation analysis)とスパースロジスティック回帰法(sparse logistic regression)を組み合わせた人工知能技術。この技術を用いて、過学習を防ぎ、MRI装置の機種や撮像方法などと関連する脳機能結合は除外し、診断に関連する数少ない脳機能的結合の抽出と、各結合の重み付けの計算を行う。判別器は、最終的に選択された脳機能結合 (本研究では15本)の相関係数とそれぞれの結合の重み付けを掛け算したものを全て足し合わせた数値を指標(バイオマーカー)とし、その数値が0以上であればギャンブル障害患者、0以下であれば健常者、と予測する。

※4 AUC(Area Under the Curve)
ROC曲線を作成した時に、グラフの曲線より下の部分の面積のことであり、疾患群と健常群などの二値分類を行う手法の精度を評価する指標として用いられる。0~1の数値をとり、1に近い値ほど、優れた判別方法であることを示す。ランダムで判別には向かない方法では 0.5 に近い値になる。

論文リンク:Development of a classifier for gambling disorder based on functional connections between brain regions(Psychiatry and Clinical Neurosciences)