内視鏡による細胞シート移植を可能にするデバイス開発 京大らの研究グループ
近年、iPS細胞(ヒト人工多能性幹細胞)から作成された細胞シートを移植することで、患部の機能再生を目指す治療法の研究が進み、普及に向けての取り組みが加速しているが、移植の際の侵襲度を下げるデバイスを京都大学らの研究グループらが開発中だ。先ごろ3Dプリンタで生成した静的なモデルによる検証が行われ、論文が発表された。
内視鏡内で収納し、患部で大きく広げる新しいデバイス
高齢社会の進展で、心不全など重い心臓病を患う患者の増加傾向が続くと予測されている。その対応のため、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを用いた心臓再生医療に近年期待が集まっており、実際に大阪大学病院での治験が始まっている。
細胞シートの移植方法として現状では、胸を大きく切開し心臓を露出した上で表面に移植する方法がとられているが、可能であればより負担やリスクの少ない、内視鏡を用いた移植方法の提供が望まれる。これを可能にするため、京都大学医学部附属病院升本英利特定助教、大学院医学研究科長田裕明博士課程学生、芦森工業株式会社山下英樹産業資材技術開発二課長、株式会社ニッケ・メディカル上杉昭二取締役らの研究グループは、細胞シートを内視鏡内で収納し、患部に到達した段階で大きく広げて移植できるデバイスを研究開発中だ。
研究グループでは先ごろ、細胞シートをスムーズに、かつ損傷することなく閉じ広げできるよう、適度な硬さを持った素材(エラストマー)による「アプリケータ(貼付装置)」を備え付けたデバイスを開発。アプリケータには細胞シートを歪みなくきれいに心表面に貼り付けるため、表面を濡らすことができるようなチューブを設け、また体内で先端から徐々に折り曲げることができる機能を実装した。このデバイスが実際に内視鏡的な移植に使用しうるかどうかを検証するため、クロスメディカルの協力で、ヒトの成人男性のCTデータをもとに作製した皮膚・筋肉・肋骨・肺・心臓まを再現した3Dプリントシミュレータを作成した。実際の手術に似せた状況で、小さな切開を通して心臓近くまでデバイスを進め、カメラで位置を確認しながら心臓表面にナイロンメッシュに載った細胞シートを移植する実験を行った。様々な条件を検討し、最終的には100%の確率で心臓表面に細胞シートを貼り付けることができるようになったという。
研究グループでは、このデバイスは心臓以外の他の臓器への内視鏡的な移植への応用が将来的に考えられ、また、細胞以外のシート状バイオマテリアルの心臓表面への移植にも応用することが考えられるとする。さらに、医療機器開発における3Dプリントシミュレータの使用は、教育的観点や、実験動物の使用数を減らすという動物愛護的な観点からも有用なアプローチだとしている。今後は実際に心臓が拍動する、より現実に近いモデルでの検証を行い研究を進める予定だ。なおこの研究成果は、2020年11月17日に日本の国際学術誌(「RegenerativeTherapy」)にオンライン掲載されている。