「あの頃は、7人くらいしかいなかった」ー多動力を発揮する加藤浩晃氏が見据えるのは

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オンラインサロンという形態のコミュニティが出てきたのは、2010年を過ぎた頃だろうか。今や様々な分野のインフルエンサーたちが、それぞれのオンラインサロンを運営しているが、ヘルスケア・医療の分野でも運営している識者がいる。元厚生労働省の医系技官で、現在は医療ベンチャー「アイリス」のCSOChief Strategic Officer)、眼科医の加藤浩晃氏だ。

2006年度浜松医科大学卒業。専門は遠隔医療、デジタルヘルス。眼科専門医として1,500件以上の手術を執刀、白内障手術器具や眼科遠隔医療サービスを開発した経験、医系技官として規制等の実務に従事した経験のほか、自らもベンチャーに籍を置きイノベーションを自ら実践、その経験を様々な機会で還元している。デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学メドテック・リンクセンター客員准教授/東京医科歯科大学非常勤講師/東北大学大学院非常勤講師/横浜市立大学医学部非常勤講師/アイリス株式会社取締役CSO/京都府立医科大学眼科学教室/経済産業省J-Startup推薦委員/厚生労働省医療ベンチャー支援(MEDISO)非常勤サポーター/日本遠隔医療学会 運営委員・遠隔診療モデル分科会長。著書は『医療4.0(第4次産業革命時代の医療)』など。

彼が主宰するオンラインサロン「ヘルスケアビジネス研究会」は2017年に運営を開始し、すでに会員200名を突破する規模となっている。月1回、東京で行われる定例会のほか、不定期の勉強会、Facebookグループでの交流とこれまでの定例会のアーカイブ配信が提供メニューだ。

加藤氏のご厚意で、先日行われた定例会を取材することができたので、イノベーションを生み出す「パイプライン」のひとつのかたちとしてご紹介したい。

感じたのは「あたたかさ」と「共感」

医療・ヘルスケア界隈では有名な日本橋のとあるビル。ここの会議室を毎月決まった曜日、決まった時間を借りて、定例会は行われている。

まず最初に感じたのは「研究会」「オンラインサロン」といった言葉から醸し出されるビジネス感というものがまったくない、あたたかさだった。日時が決まっていることもあるだろうが、入り口に簡単な手書きの案内があるだけで、受付やイベント次第といったものもない。この日は最初に加藤氏が会場に入り普通に何か作業をしており、そうこうしているうちに参加者が一人二人と入ってきた。そして「どうも、お疲れ様です」といった軽い挨拶を交わし、席に着く。

雰囲気はまるで、大学での大教室の講義前か、気の置けない仲間がいる運動部の部室のようである。面識のある会員たちは近況報告をそれぞれにし合い、初見の会員同士は自然と名刺交換し、自己紹介し合う。

ここに来た会員たちは全員、お互い面識のある無しにかかわらず、絶対的に共感しあえる何かを持っている、少なくともそれを確信していると感じた。

あとで加藤氏にお聞きして納得したが、このオンラインサロンは入会審査を行い、加藤氏なりの基準で、人となりや、この領域で真剣に事業を始めている、始めようとしている人だけに入会を許可しているという。「温度感」や「方向感」を大事にしている、とのことだ。

間違いなくこの雰囲気は、その見定め方が成功している証しだろうと感じた。

桐山瑤子氏
医師。国立国際医療センターで救急診療に従事後、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で医療機器の審査・開発支援に従事。次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業 人工知能分野WGに委員として参加

さて定例会だが、人が増えてくると、加藤氏がそろそろかなといった風情で周りを見て、「始めますよー」と軽く号令をかける。

この日は先日までPMDAに籍を置き、AI医療機器の審査担当だった桐山氏を招いてのセミナーだった。

オンラインサロンの流儀でもありメリットでもあるのは、ある程度クローズであることだ。このサロン内で行われるやりとりは、会員同士の善意のもと、決して外部に漏れることはない。それを前提にした桐山氏の講演は、実際に審査していた経験を踏まえた、網羅的でありつつも個別具体的な話も聞けるというものになっていた。

講義のあとの質問や対話も、先日、AI搭載の医療機器がはじめて認証された情勢をとらえ、今後どのような方向性や立て付けで認証を目指せばいいのかといったかなり実践的な議論になっていく。それも然りで、ここにいる会員はすでにベンチャーとして起業していたり、大手企業内で新事業を任されていたりなど、すでに走り始めている人たちばかり。質問も多く、加藤氏もそこに加わって、さらに深く、事業性を探求する内容になっていく。

ここで感じたのは、参加者全員が質問や議論を楽しむ雰囲気だったこと。質問内容も、自分が関係している領域に限ったことではなく、議論の流れに沿って、それを深めていくようなものが多かった。加藤氏のファシリテーションで一通り質問が尽きるまで議論は続き、そのまま二次会へ。

「どんどん作っていってくれればいい」

近隣の飲食店へなだれ込んだ二次会、今度は打って変わって、会員同士が膝突き合せるようなかたちで、自分たちの思っていることや課題をそれぞれに語り合っていく。加藤氏ももちろんそれに加わり、ここでは個別のアドバイスを外連味なく送る。それぞれにやりたいことは違うが、同じセクターでイノベーションを起こそうとしている「同志」である、という共感が場を終始包んでいる。だからここまで突っ込んで話ができるのだろう。

あるタイミングで隣に座った加藤氏が、こう語ってくれた。

「東京に引っ越してまだ3年ですが、地方と都市の違いを実感してます。その前は関西で現mediVRの原先生らと、梅田で集まりを企画するなどしていたけど、関係者含めて参加者7人とかそんなものだったんですよ。東京はやはり人も情報も集まるボリュームがまったく違う。ここで交換される情報は本当に貴重だし、こういう情報を学生さんでも触れられるようにしたくて、月3,000円という値段付けにしているんです」

「僕を介さなくても、どんどん会員同士でコラボしてもらいたい。関係性を作っていってくれればいいんです」

加藤氏がサロンで求めているのは、自分が主役になることでもなく、自らが関わる事業への協力でもない。むしろ自分とは関係なく、この場を使って会員の事業や想いをアクセラレーションすることだった。これは技官になる前から、一般への啓発や医学者への教育に注力してきた彼ならではの視座なのかもしれない。

加藤氏はこの4月から、実に5つの大学で同時に教鞭をとる。彼の「未来の医療をつくる人をつくる」取り組みは、さらに加速していくのだろう。

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